第270話 家族の家族
「では次まいりますよ~! ちなみに、エンドレスになっちゃうので今しがたの問答で新たに浮かんだ質問はお控えください! もともと聞きたかった内容に絞ってお願いしまーす!」
舵取りをしつつ、ソティラは「ではでは、そこの御婦人!」と言って子連れの主婦を当てた。おじさんがどうぞとマイクを渡すと、彼女はペンダント型のフィラクタリウムを太陽光にさらすように掲げる。
「こんにちは。あの、夢であなたが告知してくれたこのきれいな魔除けなんですけど」
「わ、もう手に入れてくれたんだ!」
「はい! ……これ、どこの町でも頒布してるのは王国軍の人たちって聞きました。ふと思ったんですが、ヴェリスさんはお役人さまの立場なのですか?」
(? ソティラ、お役人ってなに?)
(そ、そこから!? えーっと、要するに国の運営を手伝っているかどうか、それを仕事にしているかどうかって感じの意味合いかなあ)
(なるほど)
ヴェリスはまた曇りなき眼差しで答える。
「わたし、お役人ではないです。もちろん女王様も王国軍も大切な友達だけど……わたしはあくまで、ギルド『陽だまりの風』のヴェリスだから」
さらりと物凄いスケールの発言が飛び出し、またも会場がヒートアップした。次第に慣れてきたのか、この状況を楽しむように酒盛りを始めるグループも出始めている。いっぽう質問者の主婦は目を丸くしながら、あえて後半部分にのみ言及した。
「つ、つまりあなたは、ギルドの一員として夢のお告げを……?」
「うん! えへへ、陽だまりの風はわたしの自慢の家族なの! みんなとっても優しくて……その魔除けも、世界から魔獣被害が少しでもなくなるようにって、みなさんのことを想いながら作ったんです」
「えっ、これヴェリスさんのご家族が制作していらっしゃるんですか!? じゃあ今回の頒布はそもそも国じゃなくて……『陽だまりの風』の方々による発案であったと……?」
「(こくこく)」
刹那、あちこちから驚嘆の声があがった。ヴェリスのいう"家族"がたとえ比喩的な意味であったにせよ、一ギルドが自分たちの制作物を世界中に流通させるべく活動し、王国軍がそれを支援しているような図式になるのだから無理もない。しかもその目的は純粋に"みんなを想って"ときた。主婦はおそるおそる尋ねる。
「……実をいいますと私、どうしてこんなに貴重な品をジュース代くらいの値段でお譲りいただけるのか、ずっと不思議に思っていたんです。何か裏があるんじゃないか、騙されているんじゃないかって」
「…………」
「でも違ったんですね。これはヴェリスさんたちの想いが形になったもの――えと、最後にひとつお聞きしてもよろしいでしょうか」
「よろこんで」
「王国軍と協力関係を結んでいるにしても、この計画の実行にはきっと私なんかが想像もできないような苦悩がたくさんあったのだろうと思います。あなたがたは……何故そこまでして、世界のために動いているのですか?」
今度は逆に、ヴェリスが目を丸くした。
彼女は一瞬間をおいて、屈託のない笑顔で答える。
「それは……わたしたちにとっては、みなさんもまた家族だからです」
直前まで騒がしかった周囲を、神妙な静寂が包み込んだ。そして彼女の一声はアスター城のバルコニー、フルーカのもとにも届いていた。
(ヴェリスちゃん。本当に……本当に大きくなりましたね)
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