第269話 すごい人の子
「こ、こんにちは。わたしヴェリスといいます。敬語はあまり得意じゃないから……なにか失礼なことを言っちゃったらごめんなさい」
集った者たちに対し、挨拶とともにお辞儀するヴェリス。そんな彼女へ質問しようと、さっそく大勢の人が挙手し始めた。すると御立台の横についているソティラがライトの魔法を使って若い男性を当て、付近でスタンバっていたおじさんが機敏な動きでマイクを渡しに行った。
「はい、ではそこのあなたから!」
「ありがとうございます。えっと、ヴェリスさんは人間ってことですが……なら、夢に出てきてお告げをくれたあのかたとは、まったくの別人なのでしょうか? にしては瓜二つだった気も……」
「あ、いいえ。それは間違いなくわたしです」
「? ではあなたは、人間でありながら我々の夢に現れたと……?」
再び会場がざわつく。常識的に考えて、まずあり得ない話なのだから仕方がない。おじさんが「みんな静粛になぁ!」と叫ぶなか、ソティラが小声で確認してきた。
(ヴェリスさん、答えられそう? もし難しければ、わたしが適当に――)
(ん、だいじょぶ)
ぐっと小さくガッツポーズを取ったヴェリスは、偽りなき返答をおこなった。
「お兄さんは、"世界の光"って知ってますか?」
「光? いや、ちょっとわからないかもです……」
「そっか。あのね、この空のずっとずーっと上のほうに、わたしたち人間が毎日感じてる"楽しい"とか、"嬉しい"とか、"ありがとう"って気持ちがたくさん集まった、大きな光の塊があるの。それを世界の光と呼びます」
「は、はぁ」
「で、人間の魂と世界の光は気脈っていう見えない糸で繋がってて……寝ているとき、つまり無意識のときに、その糸を伝ってエネルギーを貰ったり、心を修復したりしているのです。あなたもわたしも、他のみなさんも」
「…………」
少女から繰り出される、にわかには信じがたい言葉の数々に沈黙する会場。
「そこで今回、わたしは糸にメッセージを流すことで、みなさんの夢におじゃましたのでした。……んー、これで回答になってるのかな……?」
「…………」
なおも沈黙が続いたが、それはおじさんのオーバーリアクションによって唐突に破られた。
「す、すげぇぇえええ!!」
「なあ、お前そんな仕組みがあるの知ってたか!?」
「いやいや知るわけねーって! てかあの子、どうやってその気脈ってのに干渉したんだ……?」
「ふむう、儂らが寝るだけで回復できとる理由に、そのような秘密が……」
「ね、聞いた!? 世界の光だって! あたいなんだかゾクゾクしてきちゃったよ!」
「フヒッ――このオカルト好きで有名な小生もそそられる内容でしたぞ……!」
様々な属性の声が聞こえてくる。大いに沸く人々を見つめながら、ソティラは真剣な顔でヴェリスを見上げた。
(こりゃ驚いた。只者じゃないのは知ってたけど……彼女、いろんな意味で次元の違う育ち方をしたみたいね)
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ちなみに先日ひいた風邪ですが、昨日平熱まで下がりました。
今は残った扁桃腺の痛みと咳、鼻詰まりと格闘中です。
なお不幸なことに家族にも感染ってしまったので
看病等のためしばらく少なめの文字数が続きそうです。