表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十四章 幸せの表現法 ~自分のためは、世界のためで~
273/356

第265話 誓い

 その後。佳果と明虎は、別室で待機中の職員に事の顛末てんまつを伝えた。甲斐かいのある報告を聞いて、職員はしきりにうなずき破顔している。


「なるほど、そうでしたか。やはりあの子は、何か悪いものにかれていただけだったのですね……!」


「ええ。ただし、"だけ"というのは少々語弊(ごへい)があるかもしれません。彼は確かに不浄なものから悪影響を受けていた。しかしそのきっかけとなったのは――本人がついぞめられなかった心の隙間すきま。そこにひそむ、表裏一体のくらき感情であったがゆえ」


「? 波來ならい様、それはどういう……?」


「職員さん。矢一が話してくれたんだけどよ。あいつ……家庭に問題があってここへ来たんだってな」


「!」


 佳果の言葉に改めて驚かされる職員。矢一の人見知ひとみしりは、施設内で暮らす他のどの子よりも激しく、彼のつよい警戒心を解くのは百戦錬磨のベテランスタッフであっても決して容易なことではなかった。だのに今日会ったばかりの御仁ごじんらに対し、みずか素性すじょうを明かすほど心を開いているという事実――職員は真剣な顔つきになって続きに耳をかたむけた。


「あいつはその痛みを、本当は誰かと分かち合いたかったんだ。けどそれをするにはちっとばかし……この場所は疎外感が強かったみたいだぜ?」


「手ひどく傷つけられた者がれ物に置き換わるのは世のつね。とはいえその患部かんぶるべきはやはり、他者との交流のなかで生まれる妙薬みょうやくに他なりません。……入所から発症までの一ヶ月間、彼がひとりでなかった(・・・・・・・・)時間はどのくらいありましたか?」


「…………」


 オブラートに包んではいるものの、毅然きぜんと問われた運営体制。彼らの指摘どおり、現行のやりかたは全体の秩序ちつじょを重んじるあまり、個々への配慮が行き届いていなかったのかもしれない。職員はキュッと目をつぶってうつむき、両手の拳を握りしめた後。それらをそっとほどいて、一つ深呼吸をしてから言った。


「……いやはや目がめたような心地です。今回あなたがたをお呼びして本当によかった。これからは心機しんき一転いってん、皆が無意識に目をそむけている部分に対しても、真摯しんしに向き合ってゆくとこの場でちかわせていただきましょう。得難えがたきご鞭撻べんたつをたまわり、深く感謝を申し上げます。此度こたびはありがとうございました」


「フフ。その誓いは我々でなく、てんおのれに――そしてここで暮らす全ての子どもたちに立てていただければさいわいです」


「あいつのこと、どうかはげましてやってください! 俺たちもまた、近々(ちかぢか)遊びに来るんで!」


「はい、痛み入ります……!」



 こうして初仕事を終えた佳果は、明虎の車に乗って施設をあとにした。

 次回(まみえ)えた矢一やいち少年が、"みんなと同じ場所"で笑っているのを想像しながら。

お読みいただき、ありがとうございます!

もし続きを読んでみようかなと思いましたら

ブックマーク、または下の★マークを1つでも

押していただけますとたいへん励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ