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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十四章 幸せの表現法 ~自分のためは、世界のためで~
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第264話 対消滅

(あったかい)


 矢一やいち少年は感じた。閉じたまぶたの向こう側で、絶対的な安心感をもたらす何かが揺らめいているのを。それは確か、赤子あかごの頃にいだいたことのあるやわらかな心地――とうに忘れ去ったはずの、無償むしょうのぬくもりに似ている気がした。


(……ぼくも、むかしは……)


 失われた日々と感触。もう二度と取り戻せぬとあきらめていた愛情という名の熱に、矢一は揺蕩たゆたいながら再会を果たそうとしていた。


(!)


 しかし光に手を伸ばすほど、境界線のごとく冷たい風が吹きつけ、自分という存在が払いのけられてしまう。触れたいのに、触れられない。その行き場のないもどかしさが制御不能の焦燥感をあおり、破壊衝動を膨張ぼうちょうさせてゆく。


「ぁ……ぁぁ……ぁぁあああ!!」


 気がつくと、瞼の手前は真っ赤に染まっていた。矢一は目を見開き、憤怒ふんぬ形相ぎょうそうで佳果の顔面を思い切りなぐりつける。刹那せつな「どうして」という懺悔ざんげと、「もっとだ」という加虐かぎゃくしん交錯こうさくし、かき乱された思考が意識を狂気へと誘い込む。


 ――いま自分は、どのような顔をしているのだろう。矛盾むじゅんする心と身体に逡巡しゅんじゅんし、再び振り上げたこぶしを震わせながら硬直する矢一。"絶対におろすまい"と必死にあらがう少年のつよき涙を見据みすえ、佳果はただ一言だけ放った。


「今までよくがんばったな」


 れたほおで口元をゆるめた佳果は、そのまま少年の頭を引き寄せて胸を貸す。すると無遠慮に輝く彼の魂が、矢一をおおっている闇――世界たしゃじぶんへだてているうすら寒い黒をあばき立て、瞬間、視界の赤は急激に色褪いろあせていった。


えるか矢一。あの黒いモヤは、お前が背負わされてきた負の感情の集合体だ」


「……負の……」


 我にかえった彼は、実体のないおぞましき醜怪しゅうかいが天井に浮かんでいるのをとらえて戦慄せんりつした。すかさず明虎あきとらが補足する。


「あれの中には、他者があなたになすりつけた黒――そして今回、あなた自身が生んだ黒も含まれています。どちらも"背負わされてきた負の感情"という点において違いはないかもしれませんが……今回我々(われわれ)が取り除くのはあくまでも前者ぜんしゃのみ。後者こうしゃのほうは、あなたが自分のちからで立ち向かわなくてはなりません」


「そうなの……? でも、一体どうやって……」


「難しく考える必要はねえ。お前が不本意にぶっ飛ばしちまった奴に対して、ちゃんとわけを話した上であやまりゃいいのさ。んでその時、お前の本当の気持ちも伝える。さっきも言ったが、寄り添うようにな」


 ニカっと笑ってそうアドバイスする佳果の身体から、きらきらとした白の粒子が立ちのぼる。それは黒のモヤを包み込んだあと、やがて対消滅ついしょうめつするかのように消えていった。

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