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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十三章 献身の美醜 ~それぞれにできること~
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第259話 帰る場所

「故郷はどうだいノーストさん」


 若者たちがこぞって微睡まどろみ始めた頃。会場の真ん中でみ交わしているのはゼイアとノーストだ。同卓どうたくにはナノ、そして陽だまりの風へフィラクタリウム普及計画を提案した商人――プリーヴの顔もあった。


「相変わらず殺伐さつばつとしている。魔力や食い扶持ぶちに困ることはないが……正直、仕事がない時はひまを持て余す場合も多い」


「守護魔としての治安維持活動、でしたっけ。ふふ、転位魔法で現場へ颯爽さっとうと現れて、あっという間に事件を平定へいていしちゃうノーストさんの勇姿が目に浮かびますね」


「ガハハ! んでいた時間を使って、わざわざ息子むすこたちに協力しくれてるってわけかい。いや~、やっぱあんたは最高の御仁ごじんだぜ!」


「……まあ、あやつらには返しきれぬ恩があるからな。それくらいは当然だ」


 ゼイアにバンバンと背中を叩かれるも、微動びどうだにせずグラスをあおるノースト。こちらの世界の酒は魔人にとって毒になるらしく、彼が飲んでいるのは氷の入った緑茶である。そのれつな境遇とうつわの大きな言動に、プリーヴは目を細めた。


「ときにノースト殿。つかぬことを伺いますが、皆様がご不在の際、魔境(あちら)ではどうされているので?」


「む? 基本的には同朋どうほうたちの様子をみているが……」


「なるほど、さすがの甲斐かいしょうですな。ちなみにそれ以外は?」


「……ひとむかし前ならば修練に明け暮れていた時期もあった。しかし張り合いのある奴がいなくなってからは……特にすることもないゆえ、適当な場所で仮眠をとるようにしている」


「(適当な場所?)あの、ノーストさん。まさかとは思いますがご自宅は……?」


「そのようなものは所有しておらぬ。吾は生まれてこのかた流れ者をやっているのでな」


 平然とそう言ってのける彼に、三人はカルチャーショックを受ける。


「い、いやいや! だってほら、親衛隊長の……パリヴィクシャさんだっけか。あの人は確か、集落で暮らしてるって話を聞いた気がするぜ? 他の魔物たちにだって、住処すみかくらいあるはずだろう。なのに首領(ドン)のあんたが放浪ほうろうって……」


「吾は魔人、あやつらとは似て非なる存在なのだ。もっともそれを差し引いたところで、今の暮らしに特段の不満はないがな」


(……そうだったのね……。ノーストさんはこれまでずっと、"家"のあたたかさを知らずに生きて……)


 ナノが悲しそうな顔をする。ノースト自身が"不満はない"と言っている以上、この感情は余計なお世話でしかないのかもしれない。しかしこのまま放っておくわけにも――そう考える彼女にプリーヴが目配めくばせし、小さくうなずいた。


「ふむ……ノースト殿。僭越せんえつながらひとつご提案が」


「なんだ?」


「現在、普及計画は順調に進んでおります。このままゆけば、おそらく予定どおり頒布はんぷが完了するでしょう。そのあかつきには、例によってラムスがうるおい……手前てまえふところもまた豊かになる次第」


「ああ、元々そういう話だったな」


「しかし! 本計画はあなたがフィラクタリウムの在りを探知してくださったからこそ成立し、実行に移せたという点を忘れてはいけません。しからば、あなたにも取り分があるべきなのは自明じめいでございましょう」


「ぬ……吾は別に、対価など望んでいないが……」


「そこで! 手前からあなたに、ささやかな贈り物をさせていただきたく存じます」


「……おいおいプリーヴの旦那、そいつぁもしかして……!」


「フフ、そのとおり。ノースト殿に、こちらの世界におけるマイハウスを進呈しんていいたしましょう!」


 「うおー!」とテンションを上げるゼイアと、その隣で両手を胸の前で合わせ、にっこり笑顔のナノ。何やら盛り上がっている様子だが、いっぽうノーストは目をぱちくりさせていた。


「いや、だから吾は――」


「いいじゃねぇかノーストさん」


 寝たふりをしながら、こっそり話を聞いていたらしい佳果が近寄ってくる。


「不満はないってだけで、別に家がある分にゃ困らねーだろ?」


「そ、それはそうかもしれぬが……」


「んじゃとりあえずもらっとけって。俺もこの世界にあんたの帰る場所があったら……なんつーか、すげえ嬉しいからさ。……ありがた迷惑か?」


「…………やれやれ。うぬがそこまで言うのならば、甘んじて貰い受けるとしよう」


「よぉし決まりだな! 旦那、腕のいい建築士の手配、いっちょ頼んだぜ!」


「お任せあれ!」


 こうして、トントン拍子で住居を手に入れる運びとなったノースト。思いがけぬ展開に戸惑とまどいはしたが――なぜか当人よりもはしゃぐ人間たちを見て、彼はいつものごとく口元を緩ませた。

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