第255話 誉れ
その日の晩。粒子精霊ウーの転生を成功させた陽だまりの風は、お祝いとしてアスター城の一角を貸し切り、立食パーティーを催す運びとなった。今回は主に身内だけでおこなわれる、ささやかな宴の席である。佳果とシムルの父、ゼイアが景気のよい乾杯の音頭をとると、銘々思うがままにコミュニケーションを開始した。
「ばあさん、ちょっといいか」
佳果は真っ先に、部屋の奥でソファに座っているフルーカのもとへ向かい、隣に座る。驚いた彼女は、初めて会った時と変わらぬ澄んだ瞳で彼を見つめた。
「まあ……ふふ、いの一番で話しかけてくれるなんてとっても嬉しいですけれど。よいのですか? こんな老婆の相手からスタートして」
「かか、あん時とは真逆だな。俺は、ばあさんだから話に来たんだぜ? "こんな老婆"なんて卑下するなって」
「あらあら、これは一本取られてしまいました」
にっこりと微笑むフルーカ。しかしすぐに、手元のグラスへ視線をおとす。
「……チャロと夕鈴ちゃんが離ればなれになったあの日から。私はずっと、いったい自分に何ができるのか――自問自答を繰り返してきました」
「……」
「今になってみれば、一連の悲劇は世界が前に進むための宿命……避けられぬ因果だったのだと思います。しかし、それで己の矮小さが正当化されるわけではありません。当時の私はあまりに無知で、あまりに至らなかった」
(ばあさん……)
「でもあなたのおかげで、そんな自分を許してあげられるようになったんですよ? すべては繋がっていて、その大いなる流れのなかに私はいる。"太陽の雫"をあなたにお渡しできた誉れ……私は生涯忘れることはないでしょう」
フルーカは会場で楽しそうに笑っている皆を見遣ると、満足そうにグラスをあおった。彼女の言葉を聞いて、佳果は申し訳なさそうな表情になる。
「そういやあん時、ばあさんを襲っていたのってクイスの連中だよな?」
「ええ、どうやらディメンションアイテムを感知できるかたがトップにいらっしゃって、目をつけられてしまったみたいですね。ログアウトを封じられた私は、プレイヤーの悪意からサブリナたちを守るため、王城から脱走しました。そのあとは、無抵抗を貫いていたところあのような醜態を晒すかたちとなった次第です。……どんな悪党であろうとも、人を傷つけるのは気が引けたものでして」
「おいおい、まったく無茶するぜ……」
「"なんとかなる"と信じていたのですよ。そして実際にあなたが来てくださった……うふふ、いわゆる結果オーライというやつです」
「は~、まあそうかもしれねーけどさ。今後はもっと自分を大切にしろよ? でないと、夕鈴が戻ってきたときに顔向けできねぇじゃんか」
「……おっしゃるとおりです。気をつけますね」
二人のやり取りを物陰で聞いていたサブリナは、うんうんと力強く頷き、拳を握りしめた。
「ところで佳果さん、私に何かお話があるのでしょう?」
「ん、ああ。改めて謝らなきゃと思ってさ。さっきも話に出てきたが――太陽の雫、あの決戦でなくなっちまったからよ」
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