第254話 おかえり
(これが俺の集めた――いや、集めさせてもらった功徳ってやつか)
繊細な美しさのなかにも、したたかで豊かな白の輝きを放つ球体。佳果の手のひらの上で浮遊するそれは、この世のどんな宝石よりも心惹かれ、愛でたくなるような流動性のある模様を内部に有していた。
「綺麗な光……うっとりしちゃいますね! これが佳果さんの人タラシたる所以だと思うと、なんだか感慨深いです~~!」
「うふふっ、前に"トクは勝手についてきているから大丈夫"とおっしゃっていましたが、その看板に偽りなしでしたわね。本当にあなたという人は……」
彼の両脇からグナを覗き込み、感嘆の声をもらす零子とアーリア。どれどれと正面にまわったシムルは「すっご!! 見てみろよヴェリス!」と言って彼女を手招きした。背の高いノーストとガウラは、上から興味深そうに見つめている。
いっぽう楓也は、明虎とゾグのもとへ近づき小声で言った。
「ちなみにあれって、愛珠とは違うものなんですか?」
「ん? 本質的には同じといえるのう。愛珠もまた、魔境から出たあとの転生に使われる善報のエネルギー塊であるゆえ」
「ふむ……あの、ゾグさん。じゃあ今さっきの"反転"だとか、波來さんが使っている神気の大元については――」
「……もぷ太くん。なぜ詮索を?」
物申したそうな雰囲気を纏って会話に割り入ってくる明虎。以前の自分なら、この意味ありげな無愛想さにペースを乱されていただろう。しかし彼の原動力が明るみに出た今となっては、もはや邪険にする理由など皆無である。楓也はあっけらかんと答えた。
「え、だって知りたいじゃないですか」
「知ってどうするのかね」
「みんなのために役立てるつもりですけど」
「ならば殊更必要ない。……君には君の役割がある。私たちのやり方に倣おうとするよりも先に、まず己にできることを省みるべきではないのかな」
「なるほど、確かにそうですね……わかりました! でも今後、どうしても気になる点が出てきた場合はしつこく聞きに来ますので、その時はサービスしてくださいね!」
「…………」
そう言って、楓也は笑顔で佳果たちのところへ合流する。かつてない折衝力を発揮され、無言で佇む明虎をゾグが揶揄った。
《ぷぷっ! お主、どうやら扱いかたがバレてしまったみたいだの》
「……取るに足らぬ話に付き合っている暇はないよ。ほら、精霊殿の旅が終わった」
《お?》
タイミングよくウーの"振り返り"が完了したらしく、粒子の回転が緩やかになってゆく。上手く躱されてしまった感はあるが、今はこちらを優先しなくては。ゾグは深い眼差しで彼に問いかける。
《気分は如何かな、粒子精霊よ》
『う、うん……少し目が回ったけど、吾輩が次にどう在るべきか。おかげ様で、それはもうばっちりって感じかな』
《重畳。では坊主、最後にそのグナを届けてやるがええ》
「ああ」
皆が見守るなか、佳果はウーの魂に光をそそぐイメージをした。連動するようにグナの珠がひとりでに飛んでゆき、粒子と融け合う。瞬間、創造神のアナウンスが各々の脳内に鳴り響いた。
《……陽だまりの風のみなさん。あなたがたの強くてあたたかく、やさしくて柔らかな意志……たしかに見届けました。ウーちゃん、あなたは星魂の一部としての存在意義を保ったまま転生を成し遂げた、初の事例です。自らの功績を誇って、来世でも存分にご活躍くださいね》
その言葉を認識した直後。
にわかに『化霞の滝』へ転位した一同は、切望していた彼の姿――生き生きと旋回しながら、こちらへやってくるウーを力いっぱい出迎えるのだった。
「ただいま、みんな!」
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