第251話 抜け道
「とまあ、そんな感じだ」
明朝、ラムスの広場に集合した陽だまりの風。いつものごとく野外会議用テーブルセットが設置され、佳果は創造神から教えてもらった情報を一通り共有した。「用事がある」といって魔境に姿をくらませた彼が、この一日何をしていたのか――その全てが判明し、零子は「なるほど」と感心する。
「いきなり師匠が登場したときは何事かと思いましたが、事の発端はウーちゃんに対するラブの炸裂だったわけですね。佳果さんらしいです!」
「みょ、妙な言い方すんなよ零子さん……。けど俺にとっちゃ、あいつもかけがえのない家族なんだ。戻ってきてほしいっつう気持ちは本物だぜ」
握りこぶしを心臓に当て、彼は真剣な眼差しで続ける。
「理想論でこんな話をすんのは軽薄だからよ、昨日まではわざと伏せていたんだが……今しがた説明したとおり、"転生"ならあいつを救えるとわかった。俺はこのまま、最後のピースを見つけたいと思ってる。みんなはどうだ?」
「最後のピース――"振り返り"の代行、その具体的な方法のことだね。……阿岸君、ウーを助けたいのはぼくたち陽だまりの風の総意さ。当然、協力は惜しまないよ」
楓也の言葉に大きく頷く一同。とはいえ、これが容易に埋まるパズルでないことは想像に難くない。ガウラは顎に手を当てて唸った。
「むむう、本来であれば精霊や神々が担っている役割か。ただの人間であるわしらが代行するには、よほどの抜け道を探る必要がありそうじゃのう」
「問題はそこに尽きますわね。ちなみに創造神様がおっしゃっていたという専用の特殊領域とは、どこにあるのでしょう? 零子ちゃんのお師匠様なら、例の秘技を使ってその場所まで辿り着けるはず。現場で実際におこなわれている"振り返り"の手法を調べることができれば、あるいは……」
アーリアがチャロを見つめながら問う。しかし彼女は首を横に振った。
「ごめんなさい。該当しそうな情報は、天界でも見聞きした覚えがなくて。いくら桁外れの霊能力をもっている岬季さんでも、領域のおおまかな周波数や世界構造がわからなければ、接続は難しいと思います」
「ふむ……」
(小娘も知らぬときたか。真っ先に連想するのは、ムンディが言っていた"法廷"なる場所だが……扱っているのは確か、地獄や魔境を経た魂の転生のみだったな。4次元以上の存在である粒子精霊とは無関係と考えるべきだろう)
ノーストが眉間にしわを寄せる。するとその横でヴェリスが発言した。
「ねえ佳果。今回ウーが転生で助かるかもしれないってわかったの、明虎のおかげなんだよね?」
「ん? ああ、厳密にはあいつと、あいつに協力してるゾグってやつがヒントをくれたんだ」
「じゃ、その二人にも相談してみようよ」
「……それもそうだね。阿岸君、波來さんは色々と言動に難があるけど、"あるべき世界"に対してはどこまでも誠実な人だよ。今後は頼れそうなときがあったら、どんどん頼っていくべきだと思う」
「お前がそこまで言うなんて珍しいな。ま、俺も昔と今じゃあいつの心象はだいぶ変わってきてる。……わかったぜ。ちっとばかし場が荒れるかもしれねーが、頼めるかシムル?」
「任せて」
片手でガッツポーズを取ったシムルは、神気纏繞を駆使して明虎の魂を捕捉した。
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