第247話 浮かんできたのは
「お、俺の魂を……?」
創造神は『あるとしたら』と仮定の表現を使ったが、この局面でわざわざ実現性のない話を持ち出すとも思えない。意図を勘ぐる佳果に、すかさず岬季が補足した。
「坊や。誠神は絶対に嘘をつかないし、規範はあれど基本的に不可能なことなんて存在しない。創造神様がこう仰っている以上、それは実際にある方法と捉えてしかるべきだろう」
(つまり俺が魂を捧げれば……俺ひとりの命を差し出せば、ウーだけでなく夕鈴も助かると……?)
僅かに心が揺れる佳果。そんな彼のもとへ、さらなる情報が舞い込んだ。
《ちなみにその方法を使う場合、あなたの神気の源――太陽神さんの時間軸移行を利用するかたちになるため、救える対象はそのお二方だけにとどまりません。暗黒神がおこなった因果の不正操作、その影響を受けたすべての御魂が救済できます》
(!? な、なんだって!?)
《佳果くんのご家族はもちろん、昌弥さんも、椰々さんのご親友も……失われてしまった世界中の命が、再び現実世界で生きられるようになります。あなたが望むなら、今すぐにそれを実行することも可能でしょう》
(…………)
《ウーちゃんと夕鈴さん。どちらかを選べば、どちらかが犠牲になってしまいます。でもあなたがあなた自身の犠牲を選ぶ場合は、数多の悲しみが浄化された、夢のような世界が待っている。……以上を踏まえ、もう一度問いましょう。佳果くん。"あなた自身の魂を捧げる"という選択肢があるとしたら、どうされますか?》
(…………)
先ほどとは打って変わり、即答できない佳果。岬季も思うところがあったらしく、押し黙る彼に助言を出せないでいる。
そうして、しんと静謐が包み込むなか。佳果の意識に浮かんできたのは、かつて陽だまりの風が自分に見せた、様々な笑顔のかがやきであった。
『あなたのいる場所はここだよ』
『大丈夫、君を一人にはしないさ』
『あなたが選ぶと言ってくれた時、すごく嬉しかったのですわよ』
『佳果のいない世界があるなんて言われても、全然信じられる気がしないもん』
『兄ちゃんが守りたいものは、おれだって守りたい』
『まったく……これが天然タラシマンさんのちからですか』
『ヨッちゃん……! えへへ、それでこそヨッちゃんだ』
『吾はこれしきで恩を返せるなどと思い上がるつもりはないぞ』
『ヌハハ、佳果よ、おぬしは恩人じゃ』
『おかげでもう一度、夕鈴と生きる道を探すことができます』
皆の言霊が、じわりと魂に染み渡ってゆく。刹那、彼は思い出した。これらの笑顔が生まれた場所に自分はいた――否、自分がいた場所にそれらの笑顔が生まれた。そしてそれはたぶん、逆も同じであるのだという揺るぎない真実を。
「……岬季さん」
「……なんだい」
「俺さ。みんながいないと幸せじゃねぇ」
「ああ」
「で、そのみんなのなかにさ……たぶん、俺も、いるんだよ」
「……ああ」
「だから俺は……俺を諦めてやれそうにねぇ。創造神に、そう伝えてくれないか」
「……もちろんだとも」
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