第246話 創造神
天空を超え、小宇宙、有と無の輪郭、大宇宙を経て、ついにすべての外側へと至った佳果と岬季の意識。そこで待ち受けていたのは果たして、創造神と思われるどこまでも清浄で、灼然なる神霊であった。姿かたちはなく、もはや光を超えた何かとしか形容できないその存在を前に、二人は本懐を遂げるべく対話を試みる。
「……いつぞやに一度だけ、御神のご神言を賜りたく、こちらへ参上したことがございました。その節は身のほども弁えず、散りぢりになってしまった私めの魂を繋ぎ合わせてくださり……深く、深く感謝いたしております。私、名を――」
《ふふ、こんにちは岬季さん。遠路はるばるようこそいらっしゃいました。またお会いできて嬉しいです》
「!」
《今回は不足がなかったようで何よりでした。あれから、こうして語らう日を楽しみにしておりましたよ》
「お、おぉ……」
創造神の言葉を聞き、何やら感涙にむせび始める岬季。文脈から察するに、かつて自らの危機を救われた経験があるようだ。彼女がオリジナルの"見えない神符"を構築できたのは、その時に結ばれた縁によるものなのかもしれない。
《佳果くんもすっかり大人になりましたね。……太陽神さんにあなたを見出していただいて、本当によかったです》
「!? ――」
驚いて声を上げようとする佳果。しかし神気廻心は受信専用のため、送信はできない。創造神は申し訳なさそうに、そして朗らかに言った。
《ごめんなさい。本当はあなたともゆっくりお話しをしたいのですけれど……それは機が熟すその時まで、とっておくとしましょう。暗黒神が退いた今、陽だまりの風は自由に世界を吹き抜けることができます。そう遠くない未来で、みなさんとの邂逅をお待ちしております》
「――」
どうやら創造神は、その名に違わず森羅万象の淵源に在るらしい。もはやこちらの事情について、細かく問答する必要はないのかもしれない。岬季は恐る恐る確認をおこなった。
「……創造神様。もしや、私どもの目的はご存知で……?」
《はい。黒龍クルシェさんの眷属――粒子精霊ウーちゃんの、輪廻転生をご所望ですね?》
岬季は佳果に意識を向け、「間違いないかい?」と訴えかけた。彼は「おう」と力強く返事する。現在互いに身体を失っている状態ではあるのだが、この二人においては通話のごとく意思疎通が可能だ。岬季は「仰せのとおりでございます」と肯定した上で、さらに続けた。
「我々は、如何ようにすべきでしょうか」
《……転生とは魂の循環です。それは自由意志を獲得した後、螺旋を描きながら唯一性を目指す円環となり、やがては光とまじわって愛を育みます》
「ふむ……」
《その理は、いかなる存在にも捻じ曲げることはできません。……それでも"ウーちゃんにもう一度会いたい"とおっしゃるなら、佳果くんにお聞かせ願いたいことがあります》
「?」
《ウーちゃんを救えば、夕鈴さんとはもう会えなくなる。それでも……あなたの想いに変わりはありませんか?》
「!!」
予想だにしない究極の二択。にわかに張り詰めた佳果の意識に、岬季は静かな口調で言った。
「坊や、心の声に従って答えを出してみな。あたしはそれをそのまま、創造神様に伝えるから」
「……はぁ、んなの決まってるじゃねぇか。俺にどちらか一方を選ぶなんて真似はできねぇ。そういう話になっちまうってんなら……俺たちはあくまで、両方が助かる方法を自力で見つけ出してやるまでさ。チャロのときみてぇによ!」
「……あっはっは! なんだい、どうやら杞憂だったようだね」
岬季が彼の心を一言一句、正確に創造神へ伝える。
すると彼の神は意外な返答をした。
《なるほど、素晴らしいお考えです。ではその"両方が助かる方法"に――あなた自身の魂を捧げるという選択肢があるとしたら、どうされますか?》
お読みいただき、ありがとうございます!
もし続きを読んでみようかなと思いましたら
ブックマーク、または下の★マークを1つでも
押していただけますとたいへん励みになります!




