第245話 なんとかなる
「よ、佳果さん、いつの間に現実世界へ……」
結界へ向かうと言い残し、ノーストとともに退散していった彼を見届けたのが数時間前のこと。この間零子は、積もりに積もった過去と未来の話を昌弥と存分に語り合っていたわけなのだが――佳果においては、知らぬうちにとんでもない計画を進めていたらしい。なにせ密かにログアウトし、眼前の人物をここまで寄越してしまったのだから。
「というかご無沙汰じゃないですか師匠! 東京の実家に帰られるって仰った日に、あたし連絡先を渡したはずですよね!? あれから随分経ちましたけど、今日までずっと音信不通で……てっきり雲隠れでもされてしまったのかと、すっごく心配していたんですよ!」
「あっはっは! ま、"便りの無いのは良い便り"って言うだろう。お互い元気にやっていたんだし、そう喧々しなさんな。……それより零子。あんた、あたしが見てない間もちゃんと頑張り続けていたみたいだねぇ。その努力が実を結んで、今こうして念願の彼氏の元まで辿り着いている。……大変だったろ、ここに至るまでの道のりは」
しみじみとした優しい声色で、労いの言葉を掛けながら彼女の頭を撫でる岬季。零子は一瞬かたまった後、飛びつくように抱擁を繰り出し、懐かしき温もりと香りに包まれながら涙を流した。
「うぅ……師匠ぉ……っ!」
「よしよし、本当に良くやったね零子。……魂を視ればわかるよ。あんたはもう、霊能者として一人前だ」
「ほ、ほんとですか……!?」
「ああ、これならなんとかなるだろう。……それもこれも、全部あんたのおかげさ昌弥」
「?」
「あたしでも手に負えないような黒の連中から、よくぞこの子を守ってくれたね。結果として、文字どおり地獄へ突き落とされてしまったようだけど……あんたが居てくれたからこそ――心折れず、この地で足掻き続けてくれたからこそ。あたしたちはこれから、光栄にも世界を救う手伝いができる」
岬季の言葉にきょとんとする二人。零子が「あの師匠。それで、こちらへお越しになった理由って……?」と質問を投げかけたところ、彼女は昌弥に向かってサムズアップを放った。
「逢瀬の途中にすまないねぇ。ちょっとだけこの子 借りるよ!」
◇
「ふう」
「! 岬季さん、戻ったのか!」
瞑想していた佳果は、意識を取り戻した彼女を見て身を乗り出した。
「おお坊や、待たせたね。今しがた零子にゲームとの接続を切ってもらった。これで現実世界にいるあの子の霊力を触媒に、創造神と対話する準備が整ったよ」
(や、やっぱマジで行ってきたんだな……一体どんな手品つかったんだ)
「さて、じゃさっそく始めるとしようか。まず最初に断っておくが、創造神の神符なんてものは目下、世界中のどこを探しても存在していない。だからあたしが作った"目には見えない"オリジナルのそれを使って神気廻心の状態に入ってもらうよ。ほら、両手のひらを前に出して、リンゴひとつ分くらい空けときな」
「こ、こうか?」
佳果が言われたとおりのポーズを取ると、岬季は目を閉じて合掌し、何かを念じ始める。呼応するように、彼は両手のひらの間でエネルギー塊が形成されてゆくのを感じた。そして予行練習の時と同じく、内外の神気が混ざり合う。
(うし、あとは均一化を成功させるだけだ!)
(へぇ……大した霊感もないのに筋がいい。生命エネルギーは人によって凹凸が違うから、コントロール手順に決まった解はないはずなんだけどね。まるで誰かに最短ルートを教えてもらったことがあるような均しかたじゃないか)
実際佳果は、超感覚を持つヴェリスの指示によってこの技術を熟達させた経緯がある。思いがけず質の良い神気廻心をやってのけた彼を一瞥し、岬季は満足そうに微笑んだ。次は自分の番である。
(いざ、神気纏繞)
テラリウムと化した瞳の奥で、彼女の意識は佳果のそれを引き連れ、一気に幾重もの次元を超え飛んでゆく。向かう先は7次元――創造神の領域だ。
お読みいただき、ありがとうございます!
もし続きを読んでみようかなと思いましたら
ブックマーク、または下の★マークを1つでも
押していただけますとたいへん励みになります!




