第244話 邁進
「ほほう……いくつになっても知らない世界ってのはあるもんだ」
類まれなる霊感によって次元を超え、アスターソウルの地に降り立った岬季の意識。現実世界の姿を反映したジャージ姿で彼女が佇んでいるのは、最初の町ヴァルムの郊外だ。
《警告。不正アクセスを感知しました。恐れ入りますが、いくつか質問させていただきますので、嘘偽りなく正直にご回答をお願いします》
(ん? ……これは念話…………いや、"神言"だねぇ)
《あなたのご出身はどちらの次元ですか?》
「3次元――地球から参りました。名を雨知岬季と申します」
《なるほど、"人"ということですね。ありがとうございます。次に、あなたがこちらへお越しになった目的を教えてください》
「そうですね……あたしは別段、このゲームをやりに来たわけではございません。ただ地球や宇宙の安寧のため、天命を果たすべく……取り急ぎ、裏口から入らせていただいた次第です」
《……》
「御神はこの世界を管理されている立場にあらせられるのでしょうか? もしそうであるならば……あたしは前任の本懐を支援する者のひとり。すなわち天照大御神や、その先に御座す創造神様のご神意を汲む目的で馳せ参じた所存。……この表明では不足でしょうか」
《……いいえ、十分です。ただし、裏口を使うのは今回だけにしていただけますか?》
「ええ、畏まりました。ご無礼をはたらき、誠に申し訳ございません」
《うふふ、こちらこそ高圧的な言葉の数々、心よりお詫び申し上げます。それではあなたの滞在を許可いたしますが……ふむ、どうやらお探しの娘様がおられるようですね。しかし現在、彼女はこの領域にいないものかと存じます》
「……おっしゃるとおりで。痕跡を視るに……居場所は幽界ですか」
《ご明察です。プレイヤー名『和迩零子』様は、故あってアスターソウルから一時的に離脱し、魔境に身を置かれている状況にあります。私は斥力の関係であなたを直接お送りしては差し上げられないのですが……微力ながら、せめてチャネリングには協力させていただきましょう》
「なんと、ありがたき幸せ。よろしくお願いします」
こうしてやり取りを終えた岬季は、チャロの後任にあたる彼の神のアシストによって魔境の隠れ里を正確に捕捉し、一時的に"無意識の拡張"および"魂の捕捉"をおこなった。シムルの持っている能力と同じようなちからを労せず発揮した彼女は、そのまま瞬間移動を試みる。刹那、強制的に経由するかたちとなる次元のはざま――そこに充満する瘴気がまとわりついてきた。
(魔神のエネルギーか……量も濃度も、ちと荷が重いね)
彼女は須臾を縫って、最寄りの魔神へ念話を飛ばす。
『突然すまないねぇ。聞こえていたら、ちょっと助けてほしいんだけど』
《ん、誰だ? ……あー、あんたは零子ガールの》
『おや、もしかして噂のムンディかい? ……魔神と喋るなんて数十年ぶりだが、なかなかイカした波動をしてるじゃないか。姿を拝めなくて残念だよ』
《おっ! なんだ、あんた話のわかる人間だな! 待ってろ、いま俺様のパワーを送ってやるから》
ムンディが遠隔で、岬季に瘴気を相殺する衣を着せた。
――もちろんアロハシャツである。
《よし、これで魔境に行けるぞ。んじゃまた機会があったら、今度はぜひ一緒に茶でも飲もうぜ? 数千年でも数万年でも待ってるからさ》
『あっはっは、そりゃ楽しみだ! 違反してまで助けてくれて、あんがとねムンディ!』
◇
とうとう隠れ里まで辿り着いた岬季は、周囲を見渡す。
(魔境……マトモな霊能者なら、絶対に意識を合わせたりしない次元だね。でもほとんど悪影響が感じられないのは……アスターソウルを介して守護を得ているからか。よくできているゲームで感心しちゃうよあたし)
「し、し、師匠~~~っ!?」
にわかに素っ頓狂な愛弟子の声がして、彼女はニヤリと笑いながら振り返った。果たしてそこには、目を剥いている零子。そして生前に感じたことのある波動――昌弥の魂を宿していると思われる、異形の姿があった。
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