第242話 一番弟子
小鉄の話をまとめると、どうやら"神気纏繞"を使える彼の妻が佳果の代弁者となり、また神との相談役も兼ねてくれるらしい。そしてあらかじめ"神気廻心"を修めておくことで、佳果がその対話の様子を傍観できる状況をつくりだす算段があったようだ。
「なるほど……じっちゃんも奥さんも、マジでサンキューな! んで、肝心の神気廻心はどうやればいいんだ?」
「まずはこの神符を両手で挟み込むように合掌する。……やってみなさい」
「ぶっつけ本番か。うし、こうだな」
手を合わせた瞬間、佳果は内外の神気が混ざり合うような感覚をおぼえた。同時に身体の芯がぽかぽかと温まり、頭はすっきり冴えわたって、自分という個が世界全体と融和している――そんな確信が心のなかに芽生え始める。この無我の前兆のような感覚を、彼はよく知っていた。
(……これ、やっぱあんときと同じ……!)
「佳果よ、そこからが難しいのだ。俺たち人間はみな生命エネルギーというものを纏っているのだが、目には見えぬそれを、感覚だけを頼りにして――」
「均一化を図る……それが神気廻心ってことだろ? じっちゃん」
「! お前、まさか」
零子と魔神を封じた際、直感的におこなった生命エネルギーの操作。それはかつてフルーカから教わった超感覚の制御法、すなわち奥義の先にある境地へ至る過程で見出だした、既に会得済みの技術だった。成功の証として、彼の周囲がうっすらと輝きはじめる。小鉄は驚いたように口元を綻ばせた。
「……ふふ、いったい誰の指南だ?」
「とあるカッケェばあさんからちょっとな。ま、元を正せば変人のおっさんが編み出したっつう技術を齧ったんだが……ちなみに初めてやったときも一発成功だったぜ? 俺も、俺の大切な仲間もよ」
ククと得意げに笑う佳果を見て、小鉄は満足そうに目を細める。
(……まったく、よい顔をするようになったじゃないか。孤独に打ちひしがれていた頃のお前は、もう居ないのだな。……男子三日会わざればとはよく言ったものだ)
◇
その後、小一時間ほどが経過して。土産話に花を咲かせる師弟の元へ、サングラスをかけた白髪の女性が現れた。ジャージ姿の彼女は後ろで束ねた髪を上下に揺らしながら二人に歩み寄り、開口一番でこう言った。
「遅くなってすまないねぇ。改めて、あたしが雨知岬季――そこの老木の伴侶だよ。ま、居候していた間に何度か顔は見てるだろうし、別に今さらどうでもいいか」
「お、おう(だいたい留守だったし、直接話すのはこれが初めてだな……しかし相変わらず、よくわからねぇバイタリティに溢れてるぜ……)」
「さて、さっそく本題だ。あんた精霊を転生させるために上位誠神と掛け合いたいって言ってたけど、相手は創造神で間違いないかい?」
「! ……ああ、そのとおりだ」
「となると……あたし一人の霊力じゃ少々厳しいかもしれないね。やはりあの子も駆り出さないと」
「あの子?」
「坊やもよく知っているだろう? 和迩零子――あたしの一番弟子のことさ」
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