第241話 廻心
「神気、廻心……?」
何やら仰々しい名称に佳果は面食らった。加えて、免許皆伝の際に会得した奥義以外にも、まだそのような技術が秘匿されていたという事実に困惑する。
「じっちゃん、俺がここを出ていった時は『もうお前に教えることはない』って言ってたじゃねーか」
「あの時はな。だが今は違う」
「?」
「お前は今日、己の自由意志を以って神への接触を求め、この道場に戻ってきた。……察するに、ここまで多くの導きがあったのだろう。言わずともわかる――お前の神気は、既に顕在化しているはずだ」
「!」
小鉄の指摘に違わず、今の佳果はアスターソウルでの旅を経て、自らの魂に宿っていた太陽神のエネルギーを顕在化し、活用できる状態になっている。しかしそれと紐づいていた"太陽の雫"はいつも受動的に発動するばかりで、能動的に神気をつかった実感があるのは現状、零子たちと魔神に抗った熊本での一幕だけである。
「……なあ、神気ってのは結局なんなんだ? 確かに、そういうエネルギーが俺んなかにあるのは間違いねぇ。でも正直いうと、まだちゃんと理解できてなくてよ」
「よろしい。では秘技を伝授する前に、そこを詳らかにしておくとしよう」
――いわく、人間の魂には必ず所縁の深い神が存在し、現世に生まれる際は、その神から愛のエネルギーを分けてもらえるそうだ。この光を神気と呼ぶ。
しかしその一方、魂の構成要素には奥魔と称される魔のエネルギーも混じっており、大半の人間は愛の光よりも、こちらの闇が強く感情に作用する関係で、我欲の制御が難航し、神気は覆い隠されてしまうことが多いのだとか。
(……似たような話をウーやチャロもしてたな)
「また、我欲をある程度コントロールできるようになった魂であっても、神が"必要なし"と判断すれば顕在化は起こらない。この場合、その者は霊的、非科学的な情報と縁遠くなり、たとえ触れる機会が訪れても特に関心を示さず、ごく普通の人生を送ることとなる。因果がそう帰結するように巡るからだ」
「因果って……やっぱスケールでけぇなこの手の話は。……んで、つまり自主的に神への接触を求めてここへ来た俺なら、顕在化してないはずがねぇって道理か」
「左様。そして――顕在化した魂でなければ修められぬ秘技。それが神気廻心だ」
小鉄によると、彼の技は自己の内側にある神気を、神符など外側にある神気と同調させることで、大元に鎮座している5次元領域の神と意識を合わせられる、という効果を持つらしい。
「意識を合わせれば、神の声を聞いたり、条件にもよるが利益に預かるケースもある。ただしこちら側から意見や質問を投げかけるのは不可能、一方的に御力を賜るだけにとどまる」
「え? んじゃあ働きかけること自体はできても、あれこれ相談するのは無理なのかよ?」
「うむ。意思の疎通をおこなうには別途、『神気纏繞』というさらなる秘技が必要になるからな」
(!? それって確か、シムルが使えるようになったっつう、あの……!)
「が、そっちは生まれついての強力な霊感が必須。残念ながら、俺にもお前にもその才能はない。いくら修行したとしても、絶対に会得することはできないだろう」
「なっ……!? なら一体どうすりゃ……」
「そのために今、家内がこちらへ向かっているというわけだ。……あれは神気纏繞を行使できる」
小鉄は口ひげを触り、ニヤリと笑った。
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