第240話 僥倖
佳果は心のなかで、事の次第を端的に念じた。そして先刻のごとく「仲間を助けるために神へ掛け合いたい」という本懐を述べ、締め括る。
(――大筋はこんな感じだな。うまく伝えられたのか、あんまり自信ねぇけど……どうか俺に力を貸してほしい。このとおりだ、よろしく頼む)
合掌しながら一礼し、ゆっくりと目を開けてみる。するとロウソクの火がつうと縦に長く伸び、ほんの数秒間、20センチほどの小さな火柱を形成した。しかし次の瞬間、どこからともなく吹きつけた強風によって、ふっと掻き消えてしまう。
「な、なんだぁ……!?」
思わず独りで驚きの声を上げ、密室を見渡す佳果。これまでの旅路で散々不思議なことを体験してきた彼ではあるが、相手方との疎通が図れぬ状態で怪奇現象を目の当たりにしたのは今回が初めてだった。現実世界の、それも住み慣れた古巣でこのような出来事に遭遇するとは夢にも思っていなかった佳果は、呆気にとられつつも、火の消えたロウソクと向き合って冷静に状況を分析する。
(……そういや以前、楓也と黒龍が"全ての次元は繋がってる"的な話をしてたような。ともすりゃ、今のが神のリアクションだった場合……それって僥倖なんじゃねーか? ムンディのいう"灯台下暗し"ってやつの信憑性が、俄然増してくるわけだしよ!)
誠神に働きかけられる存在が唯一、現実世界の人間であるという盲点。依然として具体的な方法は見えてこないものの、今しがたの現象は否応なしに次元の繋がりを感じさせ、眉唾であったムンディの言の確度を押し上げた。
にわかに前向きな手応えを感じ、彼は拳をぎゅっと握りしめる。そうして希望を胸に抱きながら立ち上がり、祭壇の間をあとにした。
◇
道場へ移動すると、中央で正座している小鉄の背中が見える。
「おーいじっちゃん、終わったぜ」
「……そのようだな」
「?」
どこか含みのある言い方に首を傾げる佳果。そばまで行くと、小鉄は旧型の携帯電話を彼に見せた。画面には「すぐ戻るから、坊やにアレ教えといて」という内容のメールが表示されている。しかし件名にRe:の文字はなく、送信者の欄も空白だ。
「これ……ひょっとしていま奥さんから送られてきたのか?」
「ああ。家内は携帯など持っていないんだが……俺も毎度、驚かされるばかりだ」
「……」
どうやらとんでもない人物がこちらへ向かっているらしい。ところで、文面にある"アレ"とは何を意味しているのだろうか。佳果がそう質問すると、小鉄は懐から一枚の札を取り出した。
「――今からこの神符を用いて、お前に『神気廻心』と呼ばれる秘技を授ける」
諸事情により今日は少し短めです。
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