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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十三章 献身の美醜 ~それぞれにできること~
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第239話 師範

(こんなかたちで、ここへ戻ってくるとはな……)


 さびれた看板かんばんを見て、過去に思いをせる佳果。十二歳の頃に門をたたいたこの"あま道場"は、約四年にわたって厄介になっていた彼の古巣ふるすだ。暗黒神の影響によるうつ症状を夕鈴ゆうりとホウゲンが取り除いてくれたあと――こうしょうとして残ってしまった自己嫌悪(けんお)をなげうつため、全霊で修行にはげんでいた日々が懐かしい。


(今日は日曜……稽古けいこは休みのはずだ。相変わらず盆栽ぼんさいでもいじってんのかなぁ)


 そう思いながら門を開けた刹那せつな。視界のはしに高速の手刀しゅとうが飛び込んでくる。反射的にそれをいなした佳果は、軽くバックジャンプして間合いを取ると、相手をとらえてニカっと笑った。


「へへっ! 叩き込まれた技術ってのはそう簡単に忘れねぇもんだぜ、じっちゃん!」


「……ほう、さらに瞬発力が上がっているな。免許皆伝(かいでん)慢心まんしんせず、たゆまぬ研鑽けんさんを続けているようで重畳ちょうじょう


 整った白い口ひげを触りながら、道着とはかまを身につけた短髪の老人がしぶい笑みを浮かべる。道場(ぬし)である彼――雨知小鉄(こてつ)は、「上がんなさい」と言って隣接している自宅のほうへ佳果を招き入れた。



「ほれ」


 囲炉裏いろりの前に座っていると、小鉄が緑茶の入った湯呑ゆのみを手渡してくれる。熱いそれをすすりながら周囲を見渡せば、以前となんら変わらぬたたみのにおい、古時計の音、庭にたたず盆栽ぼんさいたちの風情ふぜいがノスタルジーを誘った。


「あ~。この感じ、帰ってきたって気がするわ」


「……お前が巣立ってから、もう一年ほど経ったか。達者たっしゃでやっていたのは見ればわかるが……だからこそせんな。ここへ戻ってきた理由はなんだ? お前に限って、まさか挨拶あいさつに顔を出しただけ、というわけでもあるまい」


「! ……ああ、ちっとばかし色々あってよ。実は折り入って、じっちゃんに聞きてぇことができたっつーか……でもアレだな……内容が内容なだけに、どっから話したらいいか……」


 煮えきらない態度をとる佳果に、小鉄はやれやれと肩をすくめて言った。


「そこに直れ佳果」


「お、おう!?」


 背筋をピンと伸ばし、瞬時に正座する佳果。小鉄は普段それなりに温厚な人柄なのだが、一度ひとたびこうして師範しはんモードに入ると、まとっている雰囲気がガラリと変わる。肌がピリつくような威厳を前にして、佳果は馴染み深い緊張感をおぼえた。


「教えたはずだ。雑然としている時ほど、おのが欲する答えは単純明快なものであると。……回り道はしなくてよい。お前がいま望んでいることはなんだ?」


「……仲間を、助けたい」


「ではそのために、何がる?」


「……神に働きかける方法」


 まっすぐな瞳でそう言った佳果に、小鉄は少し目を見開いた。しかしすぐに立ち上がると、部屋の上方じょうほうに設置されている神棚かみだなの前で黙祷もくとうし始める。その後おもむろに振り返った彼は、「こっちへ来なさい」と別室に佳果を案内した。そこには祭壇さいだんのような設備があり、中心部に長いロウソクが一本、火を揺らめかせている。


(ここ……住まわせてもらってた時は、絶対に入るなって釘を刺された部屋だな。中はこんな風になってたのか……)


「佳果」


「ん?」


「お前が今日ここへ来る運びとなったのは、おそらく俺ではなく家内かないえんだ」


「家内? ……じっちゃんの奥さんってことか」


左様さよう。今は留守るすにしているが……こので祈った声は、神仏しんぶつを通してあれに届くようになっていてな」


「…………マジ?」


「うむ。ゆえに今一度、先ほど言っていた望みについてこの場で説明を。それが終わったら、道場のほうへ来るように」


 そう言い残し、ピシャリと戸を閉める小鉄。突然の展開に困惑するも、佳果はおそるおそる祭壇の前に正座してみた。澄み切った空気と静寂のなか、ほんさかきかおっている。


(……とりあえず、言われたとおりやってみっか)

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