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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十三章 献身の美醜 ~それぞれにできること~
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第236話 アンテナ

「!」


 観念かんねんしたように、おずおずと出てくる昌弥まさや。あれから少し愛珠あいしゅを獲得できたものの、まだ外見にはほとんど変化がない状態だ。一体どんな反応をされるのかという恐怖に駆られ、彼は小刻みに震えながら言った。


「その……本当に久しぶり…………零子」


「――」


 片時も忘れたことのない、独特の揺らぎを持つ優しい声。その響きで名を呼ばれた瞬間、零子のなかに多くの感情が巻き起こった。ああ、間違いなく本人だ――気づけば彼女は、返事をするよりも先に昌弥を抱きしめていた。


「!? わ、ちょ、危ないよ!? 今のオレ、けっこうギザギザしてるんだから!」


「……あっはは……そんなの……気にしなくていいから……!」


 泣きながら幸せそうに笑う零子を見て、彼の脳裏のうりに生前の思い出が次々とよみがえる。止めどなく溢れ出る涙をそのままに、昌弥は彼女に怪我けがをさせぬよう、背中に回した手をそっと引き寄せた。冷たいおのれの身体が、じんわりとあたたかくなってゆくのを感じる。


(あのとき君を守れて……本当によかった)



 その後、しばらくして。なんとか落ち着いた二人は、"透視とうしきょう"の近くにある石造りのベンチに腰かけていた。


「でもどうしてオレだってわかったの? 他にもたくさん魔物はいるのに」


「そりゃ、あなたの彼女ですから。"大好きアンテナ"を張り巡らせていれば、どこへ隠れていようが勝手に見つけちゃうわけですよ」


「! うう、相変わらず君はそういうことを恥ずかしげもなく……」


「えへへ! ……まあアレかな。前と比べると、あたし霊感が爆上ばくあがりしてて。それがちょこっとだけ手伝ってくれた部分もあるかもしれないね」


「あ……オレを探すために、たくさん修行してくれたんだっけ」


「そそ。いやー、始めたばかりの頃はホント暗中あんちゅう模索もさく五里ごりちゅうって感じで色々苦労したんだけどね……最終的にこうして再会できたと思うと、ぜんぶむくわれた心地になってくるよ! ん~~なんだか猛烈に過去の自分をめてあげたい気分!」


 そう言ってハイテンションで「よくやったぞあたし!」と明るく振る舞う零子。きっと辛いことも多かっただろうに、それらをけて気丈きじょうに笑う彼女は、ノーストが言っていたとおり燦然さんぜんとしているように見えた。


 一緒にいるだけで元気づけられ、勇気が湧いてくるのは生前も同じであったが――今はそこに純粋な尊敬の念も混じっている。昌弥は彼女の頭に優しく手を乗せて、浮かんだ言葉をありのまま伝えた。


「零子、またきれいになったね。前にも増していとおしく感じるよ」


「へ……!?」


「……オレも負けていられないな」


 何やら決意を固め、空をあおぐ昌弥。いっぽう零子は、不意打ちのカウンターを喰らってうつむき、上気じょうきしている。その様子を遠目とおめに見守っていた里の者たちは、こぞって「あの二人を目指そう」とひそかに心のなかで奮起ふんきしたとかしないとか。



「なんと! 弐式にしきに飽き足らず、さらに改良を加えたいと申すか!」


 むろで、刻宗ときむねが驚愕している。

 ガウラはしーっと鼻に人差し指を当てた。


「里長殿、声が大きいぞい……!」


「ああいや、面目めんぼくない……。しかしガウラ殿、そなたは既に大きな代償だいしょうを払ったではござらぬか……寿命(・・)という、かけがえのないものを差し出して」


「……」


 強力な固有スキルをアップグレードさせる古代魔法――それは当然リスクなしで得られるような代物ではなく、法外な対価が必要だった。仲間、ひいては世界が危機にひんした先の戦いにおいて、ガウラは人知れず、自らの寿命をちぢめることで皆を守る決断をしていたのである。


「……今一度わしが魂をけずれば、ことはもっとうまく運ぶはずなんじゃ。……どうかわかってくれまいか、里長殿」


「確かに、再使用待機時間(クールタイム)を短くすれば魔境(こちら)とあちらの往復はより効率的になる。昌弥と零子殿の橋渡しも円滑になるだろう……とはいえ、ガウラ殿。それがし如何いかんせん、その考え方には賛同できねる。そなたが黙って二度も自己犠牲を重ねるなど、何も知らぬ陽だまりの風が不憫ふびんで仕方ない」


「じゃが……」


「ふう。申し訳ないが、これ以上の問答は無用と判断する」


「……承知した。無理を言ってすまぬ」


 毅然きぜんとした態度で断られ、すごすごと入り口に向かうガウラ。しかし去り際、彼はおもむろに振り返った。


「そうじゃ。それとは別件で、相談したいことがあってのう」


「?」


「わし、この魔境で鍛錬たんれんを積んでみたくてな。魔に触れても自我を維持する方法――共に考えてはくださらぬか」

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