第235話 見紛うはずもない
「ではゆくぞ」
正午過ぎのラムス。ノーストの掛け声に「うむ」と頷いたガウラは、固有スキルと古代魔法の合わせ技"ラクシャマナク弐式"によって、佳果と零子に絶対防御を付与した。そして次の瞬間、四人は転移魔法で魔境の隠れ里へとワープを遂げる。
「わわ、本当に一瞬で着いちゃいました!」
「おっしゃ、マジで助かったぜガウラ!」
「ヌハハ、わしとノースト殿が組めばざっとこんなものじゃよ!」
以前はガウラ本人しか使えなかったこの裏技も、条件の揃った今ではパーティ全員が利用できるようになっている。誇らしそうに笑う彼を見て口元を緩ませたノーストは、近づいてきた里長――周治刻宗にあいさつした。
「たびたび邪魔をしてすまぬな、里長よ。そろそろ住民も辟易している頃合いであろう」
「何を申すか。星魂世界を守りきったそなたらに対し、白い目を向ける者など……ここには一人もおらぬ道理。どうか気を楽にしてくだされ」
「恩に着る」
「……して、そちらが噂の佳果殿、零子殿であられるな? お初にお目にかかる。某は周治刻宗。知ってのとおり、ここの里長と賢者を兼任している」
「おう、阿岸佳果だ。……すっかり遅くなっちまったが、里長さん。俺たち陽だまりの風が今こうしていられるのは、あんたが惜しまずに色々と協力してくれたお陰だ。この場で礼を言わせてくれ。……本当に、ありがとな」
「フフ、なんのなんの」
「……はじめまして里長様、和迩零子です。彼が――昌弥がここへ来てから、ずっと見守っていてくださったそうですね。重ねて恐縮ですが、そちらの件についても深く感謝を申し上げます。あの人を導いていただいて、本当にありがとうございました」
零子は頭を下げると、「これはほんの気持ちですが」と言って里長に手土産を渡した。それを満足そうに受け取った彼は、彼女を見つめて返答する。
「ありがたく頂戴する。……なるほど、そなたのような気立てのよい恋人が相手ならば、昌弥が尻込みしていたのも俄然、腑に落ちるというものだ」
「まあ、お上手ですね里長様。……あの、それで彼は……」
「うむ。確と来ておるぞ」
実は今日、リザードマンの集落で愛珠獲得のために働いていた昌弥が、こちらまで戻ってきているのであった。「今ならば零子と直接会える」――ノーストからそう聞き及んだ彼は、未だ葛藤を抱えつつも、自らの異形を彼女に晒す決心をしたのだ。
「ただ、向こうの集落で落ち合っては一目で誰が自分なのかわかってしまうからな。本人たっての希望で、同じ風貌の者が集うこの里が逢瀬の場所に指定された次第。……あやつなりの、最後の悪あがきといったところだろうか」
「そうだったんですか……まったく、往生際が悪いんだから昌弥は」
眉をハの字にして笑う零子。その声音は、心なしかいつもより上擦っていた。
「……さて、水入らずの再会を盗み見る趣味はない。吾らはいったん退散とするとしよう。ガウラは古代魔法のことで、再び里長に相談があるのだったな?」
「そうじゃ。すまぬが、室のほうで話を聞いていただけるじゃろうか」
「承知した」
「で、佳果よ。うぬの用事というのは……」
「ああ、訳あって結界まで行きてーんだけどよ。護衛頼めるか、ノーストさん」
「無論だ。一度ガウラを送り届けているゆえ、要領は得ている。ではさっそく行動開始とゆこう」
こうしてそれぞれの目的を確認し、早々に散ってゆく四名。
残された零子は、こめかみを掻いてふうと息を吐いた。
(別に気にしなくてもいいのに……ふふっ、紳士な人たちですこと)
そのまま周辺をぐるりと確認してみると、たくさんの魔物たちが生活している様子が目に入ってくる。"人間上がり"と呼ばれる彼らは、大きな虫のような姿が特徴だ。しかし虫が苦手な零子でも、不思議と嫌悪感はなかった。
(あ――)
そして即座に看破する。同じ外見をした者たちのなかに、見紛うはずもない魂が混じっていることを。木陰に隠れた彼のもとへ、零子は淀みなく、まっすぐ向かっていった。
「昌弥、あたしだよ。……久しぶりだね」
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