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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十三章 献身の美醜 ~それぞれにできること~
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第233話 自分探し

「ふぅ」


 月明かりの下、露天風呂でチャロがまったりしている。シンギュラリティになった際、もう二度と享楽的な生活を送ることはできないと思った。しかしあの時間軸移行が発生し、SSが(10)もどきになってからというもの――気づけば夕鈴ゆうりたちと旅をしていた頃の感覚が、すっかり戻ってきている自分がいる。


(……ふふ。やはり、わたしにとって天界は身に余る場所だったのでしょう。おかげで貴重な知識と経験をたくさん得られましたが……願わくば、今生こんじょうはこのまま"人間"を生きたいものです)


 そう思いながら、チャロは隣で糸目いとめになっているヴェリスを優しく見つめた。視線を感じ取った彼女は、月をあおいで不意に切り出す。


「ねえチャロ。ずっと気になってたんだけどね。チャロもわたしやシムルみたいに、現実世界(あっち)からアスターソウルへ飛んで来たの?」


「おや、転生のお話ですか? ……順当に考えれば、その可能性は高いといえます。ただ、わたしには前世の記憶がありませんから……これといった確証はないのですけれども」


「そうなんだ……ナノとゼイアも、やっぱり全然覚えてないんだって。でもシムルはちょっとだけ、佳果と暮らしてた時の記憶があるみたい。……で、わたしは今も全部はっきり残ってる。どうして、人によってこんなに違うのかな?」


「ふむ。その辺りは上位誠神(せいしん)が密接に関わっている部分ですので、わたしもあまり詳しくは存じ上げないのですが――どうやら過去かこしょうの記憶とは得てして、"当人に必要な場合"にのみ顕在化するものだそうですよ」


「? 必要な場合って?」


きらきら(・・・・)になる過程で、その記憶が有効にはたらく場合ですね。逆にさまたげになってしまう場合は、忘れたままになるんだとか。……わたしや阿岸佳果のご両親は、さしずめ後者に該当していたのでしょう」


「ほぇー……」


 彼女の話を聞いて、なんとなく仕組みを理解するヴェリス。自分だけ記憶が鮮明なのは少し寂しいと感じていたものの、きらきらのためにそうなっているというならば、仕方ないのかもしれない。


「……あ!」


「わ、びっくりした! ど、どうされましたか」


「きらきらと言えば、そうだ……わたし、これからどうしたらいいんだろう」


「……何か困りごとでも? よければ相談に乗りますよ」


「ありがとう。……んと、エリア(9)に移動するには、愛をやわらかくしなきゃいけないんだよね? でもわたし……自分にしかできないことっていうのが、まだよくわからなくて」


(ははぁ、なるほど)


 ヴェリスはいわゆる"自分探し"という迷宮に囚われてしまったらしい。それは遅かれ早かれ、誰もが通る道ではあるが――彼女に関して言えば、おそらく単に気づいていないだけなのだろう。チャロはえて、遠回しに助言をおこなった。


「……ヴェリスさん」


「?」


「今までに、あなたの行動に対して誰かが喜んでくれたり、褒めてくれたりして……心がぽかぽか、優しくて嬉しい気持ちになった。そんな経験ってありませんでしたか?」


(ぽかぽか……)


 すぐに浮かんできたのは、王城のパーティーで佳果たちへ感謝を伝えたときの光景だ。あの日はみな、泣くほどに喜んでくれた。お客さんたちの楽しそうな表情も目に焼き付いている。そういえば翌日、シムルたちに手紙の内容や"表現力"なるものを褒めてもらった気がする。


(あれ、すっごく嬉しかったな)


「……ふふ。もしも思い当たるふしがあるのなら、ひとまずそれについてじっくり考えてみるのはいかがでしょうか。やわらかな愛って、そういうところに隠れているかもしれませんよ」


 そこまで言うと、チャロは時計を見て「あら、だいぶ長湯ながゆしてしまいましたね。のぼせないうちにあがりましょう」と立ち上がり、笑顔で手を差し伸べてきた。ヴェリスは無言でその手を取ると、希望のともった瞳で夜空を見上げる。


(わたしなりに、いっぱい考えてみよう。みんなが幸せになれる方法……!)

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