第16話 偶然は必然に
心ゆくまで食事を堪能した四人。身体があたたまって気が変わったのか、ヴェリスはパーティへの加入について首を縦にふった。早速ウィンドウ上で手続きを済ませ、さきほど町でそろえた初期装備を譲渡し、着せてみる。佳果のときと同じく大した意匠ではないのだが、本人は自らの変化にたいそう驚いているようだ。
「! これ、すーすーしない」
「今までは風通しがよすぎたもんね……」
「ヴェリスちゃん、かわいいですわ!」
「かわいい……?」
「抱きしめたくなるってことですのよ」
そう言って、ぎゅっとヴェリスを抱きしめるアーリア。急に触れられたヴェリスはびくっと震えてしまったが、なんだかじんわりとあたたかく、良い香りに絆されてしまう。それはまるで、凍えた朝にお日様を浴びているような心地がして――不思議と拒絶する気にはなれなかった。アーリアはしあわせそうにニコニコしている。
「……なあ、結局こいつは女ってことでいいのか? 前はそうだったみてえだが」
「確か今は、性別がないんだっけ」
「?」
「ヴェリスちゃん。わたくし達にも、ステータスを見せてくださる?」
こくりとうなずき、ステータス画面を出すヴェリス。確認すると、やはり性別の項目は空白になっていた。とはいえ、本人の生き方は前世を引き継いでいるように見える。ひとまず女の子として接する分には問題なかろう。
なお、固有スキル名は《マイオレム》となっていた。その内容は、任意のタイミングで30分間、AGIを限界まで引き上げつつ防御無視の効果を得られるという、超強力なもの。しかも状態異常およびデバフをもらうと第二段階へ移行し、もらったマイナス効果を克服した上で、相手のプラス効果も打ち消すそうだ。佳果は彼女が二つスキルを持っていると思ったが、実際にはこのようなカラクリだったらしい。
「阿岸君のサプレッションも、補正がかかるのがSTRじゃなくて攻撃力自体だから大概チートだと思ってたけど……」
「これほどのスキル、過去に類を見ません……他のプレイヤーに知られたら、きっと勧誘のあらしですわね」
「ま、もう俺らでパーティ組んじまったけどな!」
「あはは、なんだかとんでもないメンツになってきたね」
「ええ、今後の旅路がとても楽しみです。……さて、パーティを組んだ以上、ヴェリスちゃんのSSも把握しておきたいところです。腹ごなしも兼ねて、レベルを上げてしまいましょう」
◇
佳果とヴェリスが、共闘してモンスターを倒してゆく。レベルが大きく離れているアーリアと楓也が手伝ってしまうと経験値を得られなくなるため、二人は遠くから見守っているかたちだ。
すでにレベル上げの要領を得ている佳果に追従することで、ヴェリスは非常に効率よく経験値を稼いでいった。また本人の戦闘センスに光るものがあり、彼女は特に苦戦をしいられることもなくメキメキと成長し、やがてレベル30に到達する。さっそくSSの項目を見てみると、そこには《SS-Ⅰ(E)》!の表示があった。
「あちゃ、お前エリアⅠかよ。……ん? なんだこのビックリマーク」
「わたくしにも見せてください――あっ!」
「……アーリアさん、もしかして」
何かを察する楓也。対照的に、ヴェリスと佳果はハテナを浮かべている。アーリアは大きく頷きながら続けた。
「これはエリア移動が可能になっているという証のはずですわ。実物を見たのは、わたくしも初めてですけれども」
「っマジか!? おいヴェリス、ちょっとここ押してみろよ」
「……こう?」
人差し指でビックリマークに触れてみる。
すぐに、次のような選択肢が出現した。
『魂を《SS-Ⅰ(E)》から《SS-Ⅱ(E)》に昇華できます。実行しますか? はい いいえ』
彼女が"はい"を押すと、SS表記と同じ欄に表示されているエネルギー体のようなグラフィック――その者の魂を視覚化したものと思われる、球状の物体が一瞬ぴかりと光った。黒くゴツゴツとして岩肌のようだったそれは、つるつるとした暗い灰色へと変化をとげる。同時に、レベルキャップも60まで解放された。
「うおお! なんかすげーぞ」
「これがエリア移動……ということは、つまり」
「ええ。情報屋のかたが言っていた専用イベントとの関連性はわかりませんが、少なくともヴェリスちゃんにとって、SSを上げるのに必要な条件は既に満たされていたのでしょうね」
他の三人のSS表示にビックリマークはついていない。よって今回は、ヴェリスのみが移動できる状態に達していたことになる。だが彼女はまだこの世界に転生したばかりだ。ともすれば、先ほどの出会いから現在にいたるまでの間に、条件をクリアしたとしか考えられない。
「いったい何が決め手になって……あ」
楓也には思い当たる節があった。ヴェリスは過去世の最期で得た小さな"気づき"を思い出し、佳果とのタイマンによってそれを腑に落とした。結果、痛みとの付き合い方を覚えた彼女は、頑なだった心をわずかにひらいている。そして、その顛末を見届けたのは他の二人もまた同じだ。直感的に同じ結論へと至った三者は、互いに顔を見合わせる。
「SS上げの条件は精神的なもん、ってことか」
「おそらくは、そうなのでしょう」
「なるほど……なら、ぼく達のSSを上げるイベントは他にあるって考えたほうがいいのかな? それだとヴェリスが加わった今、フラグを立て直すのは難しいと思うけど」
「いや」
珍しく、佳果が思案顔で言った。
「ヴェリスは元々NPCだ。あのタイミングで俺らと引き合ったのは偶然か? ……俺にはそうは思えねぇ。これは勘だが、こいつと出会ったのには何か意味がある」
「そのとおりですよ、阿岸佳果」
不意に、空から何者かが飛んできて、近くにふわりと降り立った。
光る鎧と純白のマント――突然あらわれたのは、AIであった。
AIさん再登場。
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