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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十三章 献身の美醜 ~それぞれにできること~
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第225話 祝福

《……》


 繰り広げられる惨事さんじに魂をあらぶらせ、ホウゲンは深くため息をついた。五次元以上のことわり、すなわち神々(かみがみ)大則たいそくにおいて、人間への直接的な干渉はご法度はっととされている。できるのは、自由意志をって世界に愛をもたらさんと行動する人間の背中を、そこはかとなく押してやることだけだ。しかるに、これを最上位たる七次元に鎮座ちんざする暗黒神が率先そっせんしてやぶるなど言語ごんご道断どうだん――あってはならないのである。


《……この事故は、夕鈴にかぶせたカルマを悪用して引き起こされた"不正"だ。運転手の発作ほっさも、子どもをかばって夕鈴が死ぬことも……助かった子どもが生涯、()えることのないトラウマを背負うことも、それぞれの大切な者たちが深い絶望に染まりゆくことも……! だがそう安々と思い通りにはさせぬぞ!》


 ホウゲンは事故の直前、気絶した運転手の疾患しっかんを神気で治療した上で、車の電気系統に介入し、ドアロックを解除して半開きにした。そして事故の衝撃で外へ吹き飛んだ際、衝撃がやわらぐよう、念動力で近くのやぶのなかへと誘導する。これにより運転手は死の運命をまぬがれた。


 子どものほうは"自分の代わりに人が死んだ"と認識する前に意識を遮断しゃだんし、次に目覚めた際、事故の記憶が失われているよう脳の状態を細工さいくしておく。


 夕鈴に関してはせめて苦痛を与えぬため、即死となるよう打ちどころを調整した。カルマという手綱たづなを握られている手前、彼女の死や事故そのものを無くすことはできなかったが――みずからもまた神の戒律かいりつを破ることで、ホウゲンはこの"いびつな結末"に全霊ぜんれいあらがうのだった。代償だいしょうとして神格しんかくを失った彼は、夕鈴とともに幽界ゆうかいちてゆく。


《ふん、神格などなくとも……夕鈴むすめの一人くらい守ってみせよう。このまま虎穴こけつに身をひそめ、反撃の機をうかがうまでだ……!》



「こうして地獄へと至った夕鈴と禍津神はその後、魔境にてトレチェイスさんを救出し、しばしのあいだ魂だけの状態となっていました。彼らはそこで初めて意思疎通をはかり、これまでの因果の違和感、暗黒神の存在などについて情報を共有したようですね」


「なるほど……そしてわざと記憶を封印した状態で愛珠あいしゅを集め、結界に辿り着いた直後にぼくを助けてくれたと」


「ええ。本来ほんらい彼女たちはアスターソウルへ転生した後に記憶を解き放って、何も気づかず間違った未来へ進もうとしていたわたしの愚行ぐこうを止めるつもりだったのでしょう。もし旧時間軸のまま阿岸佳果がエピストロフに辿り着いていたら……きっとまた、似たような悲劇が繰り返されていたに違いありませんから」


(……押垂おしたりさん。きみはずっと、そうやって誰かを守り続けてきたんだね……)


 チャロの話を聞き、楓也はただただ物思いにふけることしかできなかった。他の面々も、神妙な顔で沈黙している。


「……ですが。それすら見通みとおし、夕鈴たちを魔獣と融合させた悪辣あくらつな暗黒神を、陽だまりの風はこれまでつむいできた多くのきずな――龍神に奇跡とまで言わしめた"必然"をかかげることで、ついには退しりぞけてしまいました。つまり……」


夕鈴(あいつ)は晴れて、何もしない(・・・・・)時間を得られたっつーわけか。なら今は……確かにそんだけで、十分じゅうぶんなのかもしれねぇな」


 ここに来て、ようやくあの死闘をくぐり抜けた実感がふつふつと湧いてくる。佳果は気恥ずかしそうに頭をかくと、開戦前にも見せたあの柔らかな笑顔で言った。


「みんな……ここまで一緒に戦ってくれてありがとな。ほんと、感謝してもしきれねぇわ」


(!)


 そんな彼に感化されたチャロが、ここぞとばかりに便乗びんじょうを試みる。


「そ、それを言うならわたしも……! まだちゃんとお礼を言っておりませんでしたが……皆様、阿岸佳果も。あの時はわたしをしかってくださって、本当にありがとうございました。おかげでもう一度、夕鈴と生きる道を探すことができます!」


 照れながらそう表明する彼女の姿は、もはや陽だまりの風にとって雲の上の存在でなく――叡智えいちをもった尊敬できる仲間であり、家族そのものであった。皆は一様いちようにあたたかい眼差しをチャロに向け、彼女の変化を心から祝福しゅくふくする。


 そしてにわかほがらかな雰囲気がただようなか、ヴェリスが珍しい行動をとった。


「えい」


「きゃっ……ヴェ、ヴェリスさん……?」


「えへへっ。こういう時はこうするって、前にアーリアから教えてもらったから」


「な、なるほど……(あれ? 夕鈴と同じかおり……)」


(こんなの全然うらやましくない、うらやましくないぞ……)


「あっ、ずるいですヴェリスちゃん! わたしもそっちに行ったらやらせてくださいね!」


「おお~、レアないただきました! これはカメラに収めなければ!(カシャカシャ)」


「……零子さん、それうつるのか?」


(あっはは、まさかこんな日が来るなんて)


 ――こうして情報整理を終えた彼らは、次なる目的を果たすべく。

 そのまま作戦会議に移行するのだった。

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