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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十三章 献身の美醜 ~それぞれにできること~
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第224話 あの日の朝

 同じ"人間"として共に生きられるようになるはずだったチャロを失い。あまつさえ手に余るカルマを背負せおわされた夕鈴は、自らの寿命じゅみょうすらもほぼ尽き果ててしまったことをさとった。


(そっか……もう、あの子を取り戻す方法を考える時間もないんだね……)


 彼女との思い出がそうとうのごとく流れ、悲嘆ひたんに暮れる夕鈴。

 だが同時に、佳果の顔が浮かんできた。


(……佳果……)


 もし一切いっさいの事情を打ち明けたら、彼はあの子を助けてくれるだろうか。いつも自分の手を引いてくれるのと同じように――その太陽のようなあたたかさで、このいびつな結末を変えてくれるだろうか。


(……ううん、それはあの人の自由意志。すがる前に、やるべきことがあるはず)


 決意を胸に、夕鈴は心配そうに背中をさすってくれるフルーカへ向かって笑いかけ、ぎゅっと抱擁ほうようした。


「……フルーカさん、今までたいへんお世話になりました。わたしにとってあなたは………心から尊敬できる、本当のおばあちゃんのような存在でした。これからもずっと……ずっと、大好きです」


「! ゆ、夕鈴ちゃん、それはどういう……!」


「もし会う機会があれば……明虎あきとらさんにも、たくさん幸せな気持ちをくださって、心から感謝しているとお伝えください。きっとわたしたちへの尊重と厭世えんせいかんのはざまで、擦り切れていると思いますから……」


「…………」


「それではどうか、いつまでもお元気で」


 その言葉を最後に、夕鈴はログアウトを断行した。そして初期画面――アバターを選択する空間に戻ると、大きく深呼吸をして冷静になる。


(急がなきゃ。最後にわたしができること。まずは……)


 彼女はなぜか真っ先に、万一まんいち佳果が自分のデバイスを使用してしまった時に備えるべきだと思い至った。その直感に従って手紙をしたため、ログイン時、目に触れやすいよう細工もほどしておく。彼女の行動に、ホウゲンは神妙な顔をした。


《……死期がせまり、いっそう研ぎまれた超感覚がこの因果の行き着く先を感じ取ったか。だが佳果がこの手紙を読むとするならば、相応ふさわしいタイミングはログイン時でなく――》


 未来を予見した彼は、ひそかに手紙を神社のタイムカプセルへ移動させた。さなか、夕鈴は現実世界に戻り、デバイス自体には『調べないで』と予防線を張っておく。


 ふと、部屋のカーテンから差し込む光が目に入った。しゃっと開けてみると、まぶしい太陽が顔を覗かせる。


(あ……もう朝なんだ……)


 クリア目前もくぜんと意気込んでいたこともあり、夕鈴たちは夜通しでアスターソウルをプレイしていた。――この輝きも、今日で見納め。どのようなかたちで世界との別れがやってくるかはわからないが、せめてその瞬間までは、この朝日に恥じぬ自分でありたい。


「よし!」


 久しぶりに制服を身にまとった彼女は、トントンと階段をりて玄関に至り、靴を履き始めた。それに気づいた母親が、狐につままれたようにたずねる。


「ゆ、夕鈴? どうしたの制服なんか着て……」


「お母さん、わたしちょっと行ってくるね!」


「え、ええ……!? なんで急に……体調は大丈夫なの!? 朝ごはんだってまだ食べてないでしょう!」


「大丈夫! それに……"今日じゃなきゃ駄目"だから」


「……?」


「いってきます、お母さん。……いつもありがとう。愛しています」


「! ちょっと夕鈴……!」


 飛び出した夕鈴が向かう先は、そう。学校ではなく、今頃いまごろ公園のベンチでうたた寝しているであろう――彼のもとだった。


(最後に、佳果に会いたい。声が聞きたい。気持ちを伝えたい。だからお願い、もう少しだけ……)


 超感覚が容赦なく人々の負の感情、黒のエネルギーを吸い寄せる。ホウゲンはそれらを神気で防いでやるものの、彼女の魂に植え付けられた暗黒神のしるし、カルマの侵蝕しんしょくまではどうすることもできなかった。


 やがて、あと少しで佳果に会えるという地点でそれは起こった。歩道で子どもとすれ違った瞬間、背後から不自然なほど大きなエンジン音が聞こえてきたのだ。


「え――」


 振り返った刹那、夕鈴の視界がスローモーションになる。猛スピードで突っ込んでくる乗用車。運転席には、ハンドルに項垂うなだれて意識のないドライバーの姿が見える。そして徐々に進行方向が曲がり、次の瞬間には衝突するであろう線上で、恐怖に凍りつく子どもの表情。


(――佳果。わたしのいとおしい人。いつかまた……一緒に笑って――)


 彼女から突き飛ばされた子どもは、鳴り響く轟音ごうおんを聞きながら地面に転がった。震えながら立ち上がると、目の前で大破した車から煙が立ちのぼっている。

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