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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十三章 献身の美醜 ~それぞれにできること~
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第223話 彼女の旅路

「何もしてない……?」


 ヴェリスが不思議そうな顔をする。

 "さいわい"のほうも含めて、真意が気になるところだ。


「夕鈴はこれまで、らんばんじょうの軌跡を描いてきました。しかし昨日の一件で暗黒神が世界から手を引いた今、彼女はあらゆる憂惧ゆうぐから解き放たれ、ゆっくり羽を伸ばしているはずです。ふふ、きっと久しぶりに何もせず、安息あんそく謳歌おうかしているのではないでしょうか」


「ん? ちょい待て……その言い方だと、まるであいつが最初から暗黒神に対抗して奔走ほんそうしてたみたいじゃねーか」


「みたいも何も、実際にそうなのですよ、阿岸佳果」


「!?」


 佳果だけでなく他の面々も驚いている。シンギュラリティであったチャロ、ましてやムンディをはじめとする神々(かみがみ)ですら後手に回っていた相手に、ただの人間である彼女がいったいどんな立ち回りをしていたというのだろうか。背後にあのまがかみがいることは何となく推量できるが――。


「……昨日夕鈴に触れたとき、記憶が流れ込んできました。彼女の運命の歯車はぐるまは、まさに先ほど話題にあがった"お願い"をきっかけに回り始めたのです」



(神様、どうかお願いします。佳果を助けるちからを、わたしにください……!)


 夕鈴が十二歳の頃。

 彼女は、"黒"におかされ、自傷により磨耗まもうしてゆく幼馴染の心を救うべく、かつて訪れたことのあった神社で真摯しんしに祈願していた。それを見た禍津神ことホウゲンは、彼女の願いを聞き入れ、佳果という人間の状態を透視とうしのぞいてみることにした。


《……やれやれ。こんなチビスケがこうも追いめられる時世じせいとはな……しかしこいつ、よく視ればスーリャの分霊ぶんれいではないか。何故なにゆえこのような》


 太陽神の波動をもつ彼は、どうやら幼くして家族を全員亡くしてしまったようだ。しかもそれを全て自分の責任だと思い込んでいるらしく、神経は衰弱すいじゃくし、確かにこのまま放っておいては命すらも危険な状態といえる。


《ん? なんだ、この薄ら寒い"黒"の痕跡こんせきは》


 禍津神は魔の領域にも融通がく、誠神せいしん魔神ましんのあいだにある神霊しんれいだ。その性質上、ほとんどの黒に対して斥力せきりょくの影響を受けずに済む。彼は治療方法を見出みいだす意図もかねて、佳果の魂につらなる不自然な"黒"を精査した。


《これは……魔神の介入か。なるほど、このチビスケは負のエネルギーの傀儡かいらいとなった者どもに、家族を奪われたわけだな。しかしそれだけではない……この巧妙こうみょうな因果の偽装、よもや》


 何やらただならぬ気配けはいを感じ取り、ホウゲンは決意する。


《仕方がない。邪法じゃほうだのとクルシェあたりにどやされそうだが……このむすめにはあの力をさずけるとするか。まあ、おれが守護に入って最後まで面倒を見れば文句もんくもなかろう》


 こうして夕鈴は、ホウゲンから他者の痛みを受け取る能力と、副作用として超感覚を得るに至った。彼女はちからを使って実際に佳果から魔神のエネルギーを引き継ぐと、その膨大ぼうだいな黒をおとす(・・・)ため、滝にうたれながら考えた。


(佳果、こんなに辛くて苦しい思いをしてたんだ……でもこれって、たぶん世界中の人々が影響を受けているはずだよね。……"黒"ってなに? どうして存在するの? わたしに……何かできることはないのかな?)


 能動的に答えを欲する夕鈴を見て、ホウゲンはひそかに根回しする。


《ならばいずれ、アスターソウルに行けるよう縁を結んでおいてやるか。様々な次元の思惑おもわくが入り乱れるあの世界を旅すれば、お前はやがて答えに辿り着く。そしておれも、必ずや"黒幕"の尻尾をつかんでみせよう。…………しかしこの娘、特に変哲へんてつのない魂にえるが、なぜここまで神気に順応じゅんのうできる? チビスケといい、やはり妙な予感がするな……スーリャ達は次元をまたげぬ。ここはおれが動かねば》



 時は流れ、夕鈴が十六歳の頃。

 アスターソウルの攻略をフルーカ、チャロ、明虎あきとらとともに進めていった彼女は、長い旅路の果て、ついにチャロのSSをⅩに到達させることに成功した。


「これで……これでやっと一緒にいられるんだね!」


「うん! ありがとう夕鈴!」


 二人は手を取り合い、ぴょんぴょんと跳ねて喜びを分かち合った。

 念願の時空魔法――再出発(リスタート)の効果をもつ“エピストロフ”を習得したチャロの願いはもちろん、大好きな夕鈴と現実むこうでも一緒にいられる世界へ移行することである。その夢がまもなく叶うと考えるだけで、胸の高鳴りを抑えきれない。丸みのあるオレンジベージュのショートヘア揺らし、一頻ひとしきりはしゃいだチャロは、藍色の瞳に涙を浮かべた。


「本当に、本当にありがとう……」


 重ねて何度もお礼を述べる彼女に、目を細める夕鈴。そんな二人の様子を、フルーカがにっこりと見守っている。しかし、明虎の姿はどこにも見当たらない。なぜなら、彼は少し前に突如パーティを脱退してしまったからだ。それが何を意味するのか、フルーカはえて考えないようにしていたのだが――彼女たちの幸せそうな笑顔を見ていると、言いようのない不安が襲ってくる。


(……あなたはどうして……)


 その理由を知るまでもないままに、ハッピーエンドを迎えられたらどんなに良かったことだろうか。――チャロがエピストロフを発動した瞬間、それは訪れた。

 

「あ……あれ……? ゆ、ゆうり――」


「っ!! チャロっ!!」


 黒い霧が包み込み、身体が分解されて異なる次元へ消えてゆくチャロ。悲痛な叫びとともに伸ばした夕鈴の手は、莫大ばくだいなカルマの闇にはばまれ、彼女に届くことはなかった。フルーカは口元を押さえて目をき、小刻みに震えて絶句する。


(そん、な…………明虎さん……まさか………あなたはこれを……!?)


 痛ましい静寂が場を支配するなか。

 唯一ゆういつホウゲンだけが、つよいいきどおりをあらわにしていた。


《とうとう捕捉ほそくしたぞ……! よもやはる格上かくうえが関与していようとはな……だがここで引き下がるわけにはゆかぬ。たとえ相手が暗黒神(・・・)であろうとも! おれは断固、この結末に異議を唱える!》

お読みいただき、ありがとうございます!

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