第222話 構造
「以前にも申し上げましたが、霊界とは人間や動物などの生命体が死んだ際、それらの魂が一定期間を経たのち、還ることになっている故郷の世界を指します。ちなみに次元で表すならば、3次元以上、4次元未満といったところでしょうか」
「? なんだその以上とか未満ってのは」
「……一般的に、ぼくたちがいるこの現実世界は3次元と言われていますけど。敢えてそういう言い方をされたということは、もしかして――」
「ええ、実はそのあいだが存在するのです」
チャロによると、霊界は3.1次元から3.9次元の範囲にあるらしい。そして大別すると、三つの階層に分かれるのだとか。
「下層にはご存知、地獄や魔境といった領域があります。これらを"幽界"と呼びますが、いっぽう中層から上層については"冥界"と区別されており、これらの総称が"霊界"といった具合ですね。ちょっとややこしいですけれども」
「へぇぇ、そうなんだ……! えと、じゃあアスターソウルはどこにあるのでしょう? 前に地球の星魂領域にある世界とおっしゃっていましたが……」
零子が目を輝かせて尋ねる。
霊能者の彼女にとって、この手の話は関心が強いようだ。
「この世界はおよそ4.5次元に存在しています。4.0次元から4.9次元のあいだには精神界や精霊界、仏界といった領域もあるのですが、アスターソウルはそのどこにも属さない、特殊な領域に該当しますね。なお"世界の光"がある天界――すなわち神々の世界は、すべて5次元以上に存在します」
(……確か、ムンディさんは暗黒神が7次元の存在と仄めかしていたような。うーん、なんだか頭がくらくらしてきたわね……)
途方もない話に、さすがの椰々もついていくのが精一杯である。
ヴェリスやシムルに至っては、終始はてなを浮かべて難しい顔をしている。
「つか、次元の話ってタブーだったはずだよな? 俺ら的にはありがてぇけどよ、こんなにほいほい教えちまって大丈夫なのかお前」
「ご心配には及びません。詳しい事情はわかりませんが、どうやら昨日の戦いを堺に、秘匿情報における機密レベルが大幅に下がったみたいですので。これからは、今まで言えなかったこともガンガンお話していきます!」
両手でガッツポーズをとるチャロを見て、佳果は「そうか」と安堵した。彼女から借りられる知恵の幅が広がったのは、非常に大きなアドバンテージといえる。
「えへへ、頼もしいです! ……では次に、なぜ押垂さんは霊界に還らなければならなかったのか、その点を教えていただけますか?」
「もちろんです。まず死後の魂とは、有している愛と魔の割合、カルマなどによって霊界のなかでも還る先はバラバラです。夕鈴の場合、偽りのエピストロフで負った莫大なカルマの影響で幽界に飛ばされこそしましたが――それは裏で暗黒神が因果を操作していたから起こった"不正"でした」
「……つまるところ、本来の行き先はあくまで冥界のほうであったと?」
「はい。生前、夕鈴のSSはⅨだった。このエリアにいる魂は、冥界のなかでも最上層に故郷があります。彼女も今頃はそこにいるのでしょう」
「ね、チャロ。じゃあ夕鈴はその冥界ってところで、何をしているの?」
純粋な眼差しでヴェリスがそう尋ねると、チャロは微笑んで言った。
「幸い、特に何もしていないと思いますよ」
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