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第15話 しょっぱいハンバーガー

 その後、ヴェリスは皆が起きるまで何もせずに待っていた。やがてアーリアが目を覚ますと、すぐに固有スキルを使って全員を回復させたのだった。


 そして現在、一行は最初の町『ヴァルム』まで戻ってきている。佳果も世話になった例のショップにおもむき、こどもでも着用できそうなサイズの装備を見つくろいながら先ほど起きた一連の経緯について話し合っていると、アーリアが言った。


「――つまり、ヴェリスちゃんはNPCでもあり、プレイヤーでもあるということですの?」


「だと思うぜ。アーリアさんと楓也も見てたんだろ? あいつの記憶」


「うん。そのあとの、君のがんばりも含めてね」


 このゲームでは気絶すると一定時間、意識体となってフィールドを俯瞰ふかんする状態に入る。二人は気絶させられたあと、その意識体ごと"太陽の雫"の光にのまれ、それぞれの視点でヴェリスの過去を見ていたのだという。


「なら、そう考えるのがしっくりこないか」


「確かに、あの子の記憶の最後……魂のようなものが、こちらの世界へ引き寄せられたように見えましたわね。それが、NPCのなかに宿って……?」


「おそらくな。むかしのあいつと今のあいつじゃ、姿もちょっと違っているしよ」


「――生まれ変わり、か。でもあの子は現実世界の身体がないわけでしょ? それを果たして、転生と呼んでもいいものか……」


「あいつは俺らと同じように魂をもってる。んで、怒ったり泣いたりすんだからよ。別に生きてるのと変わらなくねーか?」


「……そっか。それもそうだね」


 楓也がちらりと後ろを見る。ヴェリスはショップ内のすみっこにある物陰で、彼らをじっと観察していた。心を許してくれたわけではないらしく、あれからずっとこの調子である。


「あの子はNPCとプレイヤー、そのどちらに対しても痛覚が働くようですし……ある意味で、この世界の住人として最も純粋な存在といっても過言ではないかもしれません」


「ああ。あいつにとってはここがリアルなんだ。なら生き残るためにも、まずは強くならねーと」


「そのための装備、だね」


 本人がこばみ、ヴェリスはパーティに加入していない。ゆえに自己申告のステータスを確認したところ、レベルはまだ10そこそこだった。スキルについては、説明は読めるものの内容が複雑で理解できないそうだ。ただ、再使用までの待機時間――クールタイムは24時間もあるらしい。


 いくら強力なスキルを持っていても、クールタイム中はまるごし同然になる。現在ヴェリスの着ているものは、ボロボロの布切れのようなマントだけだった。このままではいずれ、命の危機にひんする局面も出てくるだろう。ならば現段階で、装備を換装しておくに越したことはないのだ。



 アーリアが無償で一式の装備を購入し終えると、三人は道中で軽食を買いつつ、町の外に出た。ヴェリスは人目が多いところが苦手のようで、一度レストランに誘ったのだが、嫌がって隠れてしまった。そこで、この草原でシートをしき、ピクニックをしようというアーリアの提案が採用された。


「おいヴェリス、お前の分もあるからこっち来いって」


「ヴェリスちゃん、お腹がすいてますでしょ? これなんかいかがかしら」


 アーリアがエビカツをはさんだハンバーガーを取り出す。ヴェリスは岩陰からそれを物珍しそうに見つめたが、ふいっとそっぽを向いてしまった。

 「ダメか~」とうなだれる二人を横目に、楓也がハンバーガーを持ってヴェリスに近づいてゆく。威嚇いかくするヴェリスの様子に苦笑しながら、楓也はそっと差し出した。


「ぼくも阿岸君と同じで、きみを恨んだりしていないよ。あと、これは仲直りのしるし」


「……なか、なおり?」


「うん。誰かに痛いことをしてしまって、自分も痛くなったときはね。こうやって、痛みとさよならするために心をくばるんだ。くばられたときは、そのままもらえばいいんだよ」


「…………」


 ヴェリスは楓也の放った魔法を思い出す。風の本体はかわせたものの、端っこがかすってしまい、ビリビリと痛い思いをさせられた。こいつは、それで心が痛くなってしまったらしい。そしてその痛みを、このヘンテコな食べ物に乗っけてさよならしようとしている。

 ――これを受けとれば、こいつは痛くなくなるのかもしれない。でも痛いのは、自分だって同じなのだ。

 ヴェリスはゆっくりと、受けとったハンバーガーを半分にちぎり、彼に差し出す。


「ん。……自分も、くばる」


「! ……えへへ、そうだね。仲直りは二人でするものだった」


 心地よい、そよ風が吹き抜けてゆく。

 アーリアと佳果は目を細めて、二人の様子を見守っていた。


 ハンバーガーを口にしたヴェリスは目を見開いて、がつがつとすごい勢いでそれを食べ始めた。あまりにも美味しかったせいか、食い散らかしたソースと止まらぬ涙もあいまって、顔が汚れまくっている。楓也は優しくそれを拭いてやりながら、「おいで」とシートの方へヴェリスを誘導するのだった。

大人になるほど、くばりかたを忘れてゆく。


※お読みいただき、ありがとうございます!

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