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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十二章 愛の因果律 ~掴みかけた夢~
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第220話 夢のかけら

「戻って……きたのか?」


 青空の下で、燦々(さんさん)と降りそそぐ太陽の光に目を細める一同。魔獣の脅威は去り――目と鼻の先に、夕鈴とトレチェイスがいる。


「ん……」


 先に目覚めたのは夕鈴だった。その寝ぼけまなこを見て、真っ先に駆け出したのはチャロである。膝をつき、手を取って彼女を立ち上がらせると、同じ顔が二人ならぶ。


「ゆ、ゆう……り……」


「……おはようチャロ。明虎あきとらさんに、フルーカさんも……ご心配をおかけしました」


 涙を流すチャロを抱きしめながら、謝罪する夕鈴。しかし明虎は何も言わずフードを目深まぶかにかぶると、念話で『その言葉はまだ受け取ってやらない。来たる日にとっておきたまえ』とだけ答え、立ち去ってしまった。


 そんな彼の背中を横目に、フルーカは哀愁を帯びた表情で陽だまりの風のほうへ手のひらを向けて、夕鈴の視線を誘導した。そこには、神妙な顔をしてたたずむ佳果と楓也の姿がある。彼女はチャロからそっと離れると、数歩進んで彼らの前に立った。


「佳果」


「……ああ」


青波あおなみくん」


「……うん」


「会いに来てくれて、本当にありがとう。でも……」


 うつむく彼女は、声も仕草しぐさも魂も。生前と何ら変わらない、まごうことなき押垂おしたり夕鈴ゆうりその人だった。ただひとつ――太陽の光に照らされたその身体に影がなく、半透明であることをのぞいては。それが意味するところを、他の仲間たちもまた直感している。


「わたし、もうあまり時間がないみたい」


 申し訳なさそうに苦笑した夕鈴の姿が、光の粒子とともに空へ向かってゆっくりと分解されてゆく。ヴェリスは何故か、その行き先がはっきりとわかった。タタタと駆け寄り、彼女の瞳をまっすぐ見る。


「夕鈴……かえっちゃうの? ……霊界に(・・・)


「あなたは…………ふふ、そっか。神々(かみがみ)はあなたを選んだのね」


「?」


「もう、この世界にあなたの想いを否定する斥力せきりょくはありません。だから自分を信じて。みんなを――佳果を信じて」


「……ん。わかった」


 抽象的な物言いだが、ヴェリスはそこに込められた意図を汲み取り、力強くうなずいた。そんな彼女の横へ、おもむろに歩み寄るシムル。彼を見て夕鈴は少し驚いたあと、やわらかく微笑びしょうした。


「大きくなったねぇ。その子とお兄ちゃんのこと……どうかこれからも、よろしくお願いね?」


「任せてよ、夕鈴姉ちゃん」


「えへへ、頼もしいな。……えっと、青波くん」


「なに、押垂さん?」


「佳果を支えてくれてありがとう。あなたが居てくれたから、わたしは救われたよ。こうして笑えるようにもなった。……あなたに出会えて、本当によかった」


「! ……はは。それはぼくも同じだよ。きみたちのためならぼくは……どこまでもつよくることができる。だから心配しないで。もう少しだけ待ってて!」


 何もかざらず、包み隠さず、彼はただ楓也としてさわやかに笑った。ぱあっと表情を明るくした夕鈴は、最後に彼と向き合う。


「佳果、わたし……」


「おっと、その先は"今度"聞かせてもらうとするぜ。……なあ夕鈴、見てくれよ」


「……?」


「俺にも、こんなにたくさんの家族ができたんだ。おかげで今、毎日がすっげー楽しくてさ。いつも早く紹介してやりたいなーって、そんなことばかり考えてた」


「……」


「けど、それはどうやら"今"じゃないらしい。……俺、かならずむかえに行くから。そんときゃ、俺の一番の家族は――一番大切な人は、お前なんだって。みんなに紹介(・・・・・・)、させてくれよな」


「!」


 自分の知らない、大人びた顔つきをする佳果。彼の瞳に惹き込まれ、夕鈴は紅潮こうちょうして少し目をそらす。その様子にアーリアと零子は顔を見合わせ、嬉しそうに笑った。口元を緩めたノーストは「ふっ」と腕組うでくみをし、ガウラは歯を見せてニコニコしている。


「じゃあ……そろそろ行くね、チャロ」


「っ……うん……」


「ふふっ。次こそは、きっと一緒に生きられるよ。わたし……待ってるから!」


「……もちろん! みんなと力を合わせて、絶対に見つけてみせる! "本当のエピストロフ"を!」 


 チャロの言葉を聞き、夕鈴は満面の笑みで手を振った。

 かくして、陽だまりの風はリスタートする。

 再び彼女と笑い合える、夢の世界へ辿り着くために。

次回から新章です。

たくさん残っている謎や疑問点は、後ほどのエピソードにて。


※お読みいただき、ありがとうございます!

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