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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十二章 愛の因果律 ~掴みかけた夢~
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第217話 トレチェイス

 筋肉質できばするどい、ぞうとらを足して二で割ったような魔獣。初めて見るが、順当に考えれば物理攻撃にひいでたたぐいだろう。獰猛どうもういきづかいと炯眼けいがんすごまれ、あまりの恐怖に粟立あわだつトレチェイス。


(ッ……さっきまで死ぬ気でいたっていうのに……どうして……!)


 対峙たいじが続くなか。反射的にかばってしまった背後の魔物の様子を、彼は魔獣の大きな瞳を介してうかがった。どうやら腰が抜けて動けずにいるようだ。かぼそ異形いぎょうの身体からは、ごくわずかな魔力しか感じられない。丸腰まるごしで防具すら身につけておらず、このまま見捨てれば確実に殺されてしまうだろう。よもや、これほどひ弱な者が実在するとは。


(あ……)


 そう思った途端とたん、魔物とおのれの姿がかさなって見えた気がした。彼は唐突とうとつに理解する。ここで魔物(アレ)を救えぬ自分など――さっきまで死を待ち望んでいた自分よりも、もっとずっと愚図ぐず鈍間のろまで、役立やくたたずで無価値だ。なぜならアレは、かなえたかった夢であり、すがりたかった奇跡。守りたかった矜持きょうじにして、めてほしかった同胞じぶんなのだから。


「くそっ! やってやらぁ!!」


 毒の吹き矢を取り出し、意を決して攻撃を仕掛ける。こういう時のために用意しておいた、護身ごしんようの切り札だ。すると矢は運良うんよく魔獣の目に命中し、急所を突かれた敵はのたうち回っている。


(よ、よし……! あとは時間さえ稼げれば……!)


 過度の緊張と高揚こうようにブルブルと身体を震わせながら、彼は魔物のほうへと向き直った。


「さ、このすきに逃げるぞ! いま肩を貸してやるから」


「! 危ない!!」


「え」


 ぞわりと本能の警鐘けいしょうが鳴り響く。彼はこの感覚を知っていた。いつぞやのいくさで、余所見よそみしていた自分が致命傷を負わされそうになった時の、あの凍りつくような悪寒おかんである。当時は仲間が紙一重かみひとえで助けてくれたが、今は――。


「ぶぐぅぉっ!」


 重い一撃を喰らい、地面へ叩きつけられるトレチェイス。硬い素材を繋ぎ合わせた手製の防具は、衝撃によって粉々に砕け散った。それもそのはず、この装備はあくまで対処できるレベルの相手を想定して作ったもの。こんな規格外の攻撃力、しのげるわけがない。


「グォォォォオオオオ」


 朦朧もうろうとするなか、暴れまわる魔獣の蛮行ばんこうが見えた。強靭きょうじんな尻尾を振り回し、無差別破壊を繰り返している。おそらくあの乱撃らんげきに巻き込まれたのだろう。


("残心ざんしんを忘れるな"……むかし兄上がよく言ってたっけ。はは……結局おれっちは、最後の最後まで木偶でくぼうか。……ごめん、"人間上がり"の。せっかく呼んでくれたのに、助け……られ……なくて……)


 涙とともに、全てをあきらめかける。刹那せつな、後ろから震え声でこう聞こえた。


「ありがとう」


「……!」


 その言葉を、地に伏しているこんな醜態しゅうたいへかけた真意はよくわからない。しかし生まれて初めて受け取った純粋な謝意は、彼の中にある何かをはじけさせ、強い情動によって立てぬはずの身体を起こし、気づけば魔獣に向かって手の平を向けさせていた。混濁する意識のまま、不敵に笑ったトレチェイスは心で叫ぶ。


(こいつが……こいつだけがおれっちの……トレチェイスの生きたあかしだ!! 絶対に殺させやしない!!)


 みなぎる想いを勇気に変え、感覚だけを頼りに魔の全放出(・・・・・)をおこなうトレチェイス。すると彼の魂に宿っていた魔珠ましゅが、すべて魔力の塊となって宙に浮かび上がった。それはおよそ自分が行使できるはずのない上位の攻撃魔法へと変化し、魔獣の四肢ししを切り裂く。


「ウゴゴゴ……」


 動けなくなった敵は、毒によって次第に弱り、まもなく絶命した。精根せいこん尽き果てた彼は、満足そうにつぶやく。


「……よっしゃ……おれっちは……"生きた"ぞ……!」


 そのまま倒れ込む彼の元へ、九死に一生を得た人間上がりの魔物――夕鈴ゆうりが、いずりながら近寄ってゆく。

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