第215話 白竜襲来
――少し前、E地点にて。
固有スキル《ニスカーサ》によるヘルプ参照や"書庫"の利用を通し、これまでアスターソウルについて勉強し続けていたフルーカは、その成果の一つとして、現存する全ての補助魔法を行使するという破格の支援をやってのけた。
極限まで能力を高められた陽だまりの風と魔物たちは現在、弱体化したアパダムーラ本体と対等の勝負を繰り広げている。途中、消耗した佳果が補給のため後方まで下がってきた。ガウラが「これを使うんじゃ!」と言って回復アイテムを手渡すと、彼は息を切らしながら言った。
「はぁ……はぁ……サンキュー! しっかしあいつ、ここまで食い下がんのかよ! こっちはこんだけバフ盛ってて、多勢に無勢だっつーのに!」
「ええ、流石は黒幕の上位魔神が生み出したと思しき魔獣ですね。依然として一筋縄ではいかないようですが……あたしも攻撃魔法で援護しますので、皆で力を合わせてなんとか乗り切りましょう、佳果さん!」
「……ああ! ところで零子さん、明虎のやつはどこ行ったんだ」
「へ? あらら、さっきまでそこにいたのですが……」
周囲に見受けられるのは、効果時間の切れた魔法を懸命に掛け直しているフルーカとチャロの姿だけだった。このタイミングでいなくなったということは、何か重要な行動を起こしているのかもしれないが――。
「やぁああ!!」
不意に、奮闘するヴェリスの声が聞こえてくる。当初の予定どおり、マイオレムを行使した彼女は疾風迅雷の立ち回りで防御無視の攻撃を敵に浴びせ続けていた。纏っているオーラは白く、ときおり従来の黒と赤、そして青が迸っている。すぐ近くで戦闘中のアーリアは、その様子を一瞥して思考を巡らせた。
(そういえば以前、アラギの温泉で……ヴェリスちゃんはあれらが『わたしの深いところから出てるみたい』と言っていましたわね。でも先ほどの"歪な時"で、あんな白いオーラは出ていなかったような――)
彼女がそう思った矢先である。視界の端に、山の向こうから超スピードで飛んでくる白竜が映った。その強大なプレッシャーを感知し、場にいる全員が空を仰ぐ。この土壇場で最悪の事態が訪れ、佳果は戦慄した。
「……マジかよ……あいつが来ちまったってこたぁ……」
「そんな……ノーストさんっ!!」
餞別を受け取った際に見た彼の優しい表情がよぎり、愕然と膝をつく零子。しかしすぐにチャロが異変に気づいた。
「! いいえ、ノーストは生きています! 白竜の頭部をご覧ください!」
言われるがまま凝視してみると、なんと白竜の角を掴み、さながら操縦士のごとく搭乗しているノーストが確認できた。そして地上で驚いている一同を、彼らもまた捕捉する。
「見えたぞ! あそこだ!」
『案内ご苦労。……でかしたぞ。核の分離は既に、お前の仲間たちが成功させたようだな。これならば神気を使うまでもなさそうだ』
「そうか……! よし、では吾は皆を退避させる。あとは頼んだぞ」
『ああ』
白竜とすり合わせを終えたノーストは、転位魔法で一足先に現場へ到着し、続けて前線に出ていた者たちを問答無用で後方に下げた。急変する戦況に、混乱を強いられる一同。
「!? ノーストさん、これ一体どういう状況――」
「話はあとだ! 伏せろ!」
シムルの言葉を遮り、彼がそう叫んだ次の瞬間である。白竜は鉤爪による攻撃でアパダムーラの本体を切り裂き、そのまま葬り去った。伴って凄まじい風が周囲に吹き乱れ、全員が顔を覆い隠すさなか。上空へ急上昇し、くるりと一回転した白竜が、今度は核へ向かってダイブする。
「あ……!」
一瞬だけ時が止まったような感覚があった直後、薄目で状況を確かめた佳果の瞳に、こちらへ吹き飛んでくる楓也が映った。その身体を慌ててキャッチしたところで、白竜のものと思われる声が脳内に響き渡る。
『今だスーリャ! 力を解放しろ!』
刹那、佳果の持っている太陽の雫がまばゆく輝き始めた。
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