第212話 高貴なる足枷
前回と同じく、楓也、零子、チャロによる固有スキルと魔法のバフを受け取り、進軍を始める魔物たち。続いて出陣した佳果とアーリアの背中を眺めつつ、明虎は考える。
(敵は上位魔神の差し金。誠神の神気を利用するタイムストップは、奴の莫大な斥力によって無効化されてしまう。支援するならば――)
彼はおもむろに黒のフードを取り、シルバーアッシュの長髪をなびかせた。宇宙のような瞳が顕となり、楓也とチャロ以外のメンバーが仰天している。
「ななっ!? あの方、あんな感じの容姿だったのですか……!」
「初めて見た……っていうか黒ずくめの中身、ちゃんと人間なのかよ! おれ、てっきり別の存在が化けているのかと思ってた」
「(じー)」
(むう、彼の瞳はたしかヴェリスの……噂に違わず、只者ではないようじゃな)
四人の熱い視線を完全に無視し、明虎は何もない空を仰いで言った。
「ゾグ、遊園地での一幕を覚えているかい? あれの再現を所望する。今すぐに」
《フォーラとかいう奴のあれかぇ? まったく難しい注文をつけおってからに》
「……できる癖に勿体ぶるのは君の汚点だ。牛頭天王の名が泣いているよ」
《ふん、お主だけには言われとうないわっ!》
誰かと会話している素振りを見せる明虎。しかし周囲にそれらしき人物は見当たらない。ヴェリスは疑問符を浮かべながらチャロに尋ねた。
「? ねえ、明虎はどうして一人で喋っているの?」
「へ? あ、ああ、えっとですね……」
チャロが答えようとした、その瞬間である。明虎の周りに既視感のあるエフェクトが発生した。すぐにあの日の出来事が脳裏をよぎり、思わず身体を強張らせるヴェリス。彼女の異変を察知したシムルは、駆け寄って声を掛けた。
「お、おいヴェリス、大丈夫か!? もしかしてダメージが残ってるんじゃ……」
「ううん……そっちは全然平気」
「ならいいけどさ……どうしたんだよ?」
「……明虎が使おうとしているあれ。前に、佳果とわたしが受けた"金縛り"なの」
「!」
以前、彼女から過去について教えてもらった折に聞いた記憶がある。まだ兄たちと出会ったばかりの頃、フリゴの遊園地にてクイスという賊に狙われたことがあると。その際、敵が使用した固有スキルが――。
「《シンクラティス》。さあ、下品な"絶対拘束"も、この場では世界を光へと導く高貴なる足枷。……これでお前の自由を奪わせてもらおうか」
刹那、アパダムーラの動きがぴたりと止まった。直前まで突起物の変形による猛反撃に苦心していた佳果たちは、にわかに訪れた一転攻勢に勝機を見出す。
「効果は15秒。それだけあれば熟せますね?」という明虎の念話を受け取ったパリヴィクシャは、魔物たちとともに速攻を仕掛けて六角柱の面をすべて破壊し、培養液を一気に噴出させて安全を確保した。そして流れるように核の元へ辿り着いた佳果が、明虎に向かって叫ぶ。
「来たぞ! 固着の件はどうすんだ!?」
「任せたまえ」
テレポートしてきた彼はマントを広げ、中から黒いガスを放出した。それは核に当たる瞬間に稲妻へと姿を変え、怒涛の収束を見せる。次元のはざまで門を開けたときに出てきたあのガス――ムンディがカルマの片鱗といっていた粒子に酷似しているようだが。佳果がそんなことを考えているうちに、約12秒が経過した。
「仕上がったよ」
「!」
鮮やかだった赤色が白に変化し、プスプスと音を立てる核。佳果は両腕で抱え込むと、そのまま六角柱の外へ飛び出し、身体と引き離すことに成功した。
絶対拘束が解けたアパダムーラは、再び動き始めた。しかし動きの鈍さからして大幅に弱体化している様子だ。こうなれば、あとは個別に対処してゆくだけで問題ないだろう。皆にVサインを送る佳果に、目を細めて安堵する一同。だが急に、チャロが青ざめた顔で叫んだ。
「っ! 阿岸佳果、ご注意を!」
「あん?」
その直後、手元の核から大量の瘴気が溢れ出す。
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