第211話 合作
零子によると、トレチェイスとアパダムーラの魂はあの赤い核のなかに宿っているらしい。
「つーことは、とりあえず六角柱から核を取り出しちまえばいいのか?」
「ええ。ですが物理的に抜き取るだけでは両者を引き剥がせません。必要なのは、依り代としての霊的な領域にアクセスし、内側から乖離させること。そのためにはトレチェイスさんが心をひらき、ご自身の奥魔と向き合うのが必須条件となります」
「心を……なるほど」
チャロが確信を得た瞳で佳果を見つめる。アパダムーラから発せられる強い斥力により魂の透視を阻まれていた彼女は、ここまで相手方の真意が読み切れず手をこまねいていた。しかし零子の言でおおよその事情が把握できた今、俄然、攻略の糸口が見えてくる。
「おそらくあれの発動をもって、戦況は覆ります。阿岸佳果、持っていますね?」
「ああ、こいつだろ」
彼は懐から美しい宝石、太陽の雫を取り出した。
「……太陽神はこれまで、ここぞという場面でそれを媒介に力を発揮してきました。しかしウーさんが最期に仰っていた、"歪な時"という言葉。わたし達が全滅の危機に瀕していたあの時に発動しなかったということは……」
「今この瞬間――"正しい時"ならばその場面が訪れる。そういうわけですね?」
楓也の確認に、大きく頷くチャロ。皆の表情が引き締まってゆく。佳果は目を閉じてウーの顔を思い浮かべると、ひとつ深呼吸してから不動のアパダムーラを睨みつけた。
「んじゃ、早速あいつの核をいただくとするか!」
「では、此度も我らが先陣を切ろう。まずは各面を粉砕して中の培養液をすべて抜く。その後の回収は貴様らに任せるが……見たところあの核、六角柱内で空間に固着している様子ではないか? 力ずくでは取れぬような気もするが、どうするつもりだ」
「それについては私がなんとかしよう」
突如、背後から明虎が現れた。パリヴィクシャたちが「誰だ?」と首を傾げる一方、騒然とする陽だまりの風。チャロは彼を指さして、わなわなと言い放った。
「あ、あ、明虎!? あなた、今までいったいどこで何をして……」
「説明している時間はないよ、愚か者二号。君たちが作戦会議をしている間に、敵はこの世界における魂の分布を解析し終えたようだ」
「魂の分布……? っ……まさか!」
アパダムーラは通常モードを保ったまま、全ての突起物を重火器のように変えてエネルギーをチャージし始めた。その照準は佳果たち――否、その後方にあるアスター城に向けられている。
「ほう、最も殺生効率のよい場所を標的にしたか。……来るねぇ、"空劫砲"が」
「く、来るねぇって! またあなたは他人事みたいに……!」
「大丈夫じゃよ、チャロ殿」
一歩まえに出たガウラが、あらかじめ地面に書いておいた魔法陣に触れる。すると共鳴するかのごとく陣と彼の身体が光り、続けて唱えた固有スキル《ラクシャマナク》の障壁が、なんと"味方全体"に広がった。
「! んだこりゃ、すげぇな!」
「ヌハハ、驚いたかのう佳果! たとえどんな超必殺技が来ようとも、これならばビクともせんわい!」
自慢気にサムズアップするガウラ。そんな彼を見て、明虎は密かに思う。
(ふむ、対策を講じてきたのは上出来だ。しかしこれほどの描き換え……果たしてどんな代償を払ったのやら)
「……」
その心の声を拾い、チャロは複雑な顔をした。
露しらず、ガウラは皆を焚きつける。
「――このラクシャマナク弐式はな。魔境にて長らく昌弥殿をまもってくれていた里長殿、またこの世界を縁の下から支えてくださっているフルーカ殿。そして誰よりも……陽だまりの風のため、裏で言葉少なに動いてくれていたウー殿との合作なんじゃよ」
そう言って佳果の両肩を掴み、震えながら彼は言う。
「……今のわしでは、これ以外で役に立つことはできぬ。じゃが精一杯、皆の想いを込めて構築したつもりじゃ。ゆえに、どうか……」
「ああ、わかってるぜガウラ」
「!」
「絶対に繋げてみせるさ。アレを凌いだあとのことは、俺に……俺たちに任せとけ」
ニカっと笑った佳果が拳を突き出す。そこへ他の者たちも次々と参加し、拳の円陣が出来上がった。ガウラが「ありがとう、よろしく頼む」と言った次の瞬間、アパダムーラから弩級の光線が放たれる。それを障壁が見事に防ぎ切ったのを皮切りとして、一同は核の奪取に向けて動き出した。
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