第208話 危機
「! いけない! 皆様、守りをかためて――」
血相を変えたチャロがそう叫んだ瞬間、アパダムーラによる怒涛の砲火が始まった。にわかに押し寄せる弾幕の荒波に、散開してなんとか第一波をやりすごす一同。しかし続いて襲ってきたのは、まるで生きているかのように追ってくるホーミング弾であった。
「くっ……!?」
アクロバティックに動いて回避を試みる佳果。だがその弾速は明らかにこちらの敏捷性を上回っており、とても躱しきれそうにない。視界の端では、自分よりもさらに高速で攻撃を避け回っているヴェリスの姿が見受けられる。
(解析完了って……まさか俺らのステータスを……!? さっきまで鈍かったのは、あいつも小手調べしてたってことかよ!!)
ホーミング弾はそれぞれを、丁度個々の能力値では捌けない程度のスピードをもって執拗に追い立てた。被弾を覚悟した佳果は、せめてダメージを最小限に抑えるため、当たる直前に後ろ回し蹴りでそれの迎撃を試みる。結果、使った右足に激痛が走った。
「ッ!」
爆風で飛ばされて地面に転がった彼は、苦悶の表情で傷の状況を確認した。すると消し飛んだ右足部分の空間に、ノイズが発生している。
(……クイスに拷問された時の経験からして、このレベルのダメージは脳の負担がデカすぎてセーフティが起きるはずだ。それがねぇってことは……)
尊厳しかり、アパダムーラには星魂世界の理が適用されないのかもしれない。そして、プレイヤーにおける身体の欠損は現実世界に影響を及ぼさないと思われるが、NPC要素を持つ者たちについてはおそらく――。
「みんな……!!」
サマーディの自動回復によって徐々に足の輪郭が戻り、なんとか立ち上がった佳果は、脂汗をかきながら辺りを見回した。あちこちで煙の塊が漂っている。すると、その一つから無傷のヴェリスが飛び出した。
「うぁぁああ!!」
アーリアから渡されたロケットペンダントが光っているところを見ると、魔法攻撃に対して無敵効果のある例の特殊スキルというやつで凌いだのだろう。だがあの正気を失った表情と、無謀にも単独で敵に突っ込んでゆく姿。彼は背筋を凍らせながら、薄れゆく煙のなかを再び見遣った。
「あ……」
死屍累々の魔物たちと、負傷にあえぐ仲間の声。目の前に広がる地獄絵図に迫り上がる情動を処理できないまま、マイオレム状態になったヴェリスの叫び声が聞こえてくる。
「みんなは逃げて!! わたしが引きつけるから!!」
その一声ですべての状況を理解した佳果の元へ、今度はシムルが現れる。
「! 無事だったかシムル!」
「ああ、おれは瞬間移動が使えるから! でもすぐに手当てしないとまずい人もいるよ! 今はいったん、おれが全員ラムスに運んで――」
彼がそう言いかけた刹那。ザシュ、と嫌な音が聞こえた気がした。おそるおそる振り返ると、アパダムーラから生えた一本の剣に、ヴェリスが貫かれている。
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