第207話 仮説
「あっぶね!」
光線をギリギリで躱した佳果は、再び培養液に満たされ、復活を遂げるアパダムーラの様子を視界の端にとらえた。あれが、天使の報告にあったという再生能力なのだろう。面や核の割れは完全に治っている。
(全快してやがんのか……まずいな。これでもし仮説のほうも当たっちまっていた場合――いや、まだそうと決まったわけじゃねぇ。集中集中!)
湧き起こった懸念を払拭し、周りを確認する佳果。幸い、今の光線による被害は出ていないようだ。ならばここは引き続き、情報収集あるのみ。
「依然として奴の動きは鈍い! そして我は"超硬化"だけでも迎撃を凌げるとわかった! 直ちに二度目の速攻を仕掛けるゆえ、バリアの残っている者は続け!」
パリヴィクシャの指揮で、先ほどと全く同じ流れが生じる。今回は佳果とアーリアも、それに乗じて懐へと飛び込んでいった。ところが――。
「む!?」
稲妻やエネルギー弾による牽制の衝撃に、一度目には感じなかった重さを感じるパリヴィクシャ。それでもなんとか本体の六角柱に辿り着いた彼は、面に向かって新しい槍を突き立てるも、その強度に攻撃が弾かれ、核まで届かずに終わる。
(これは……!! 先刻より、奴の能力が上昇している!?)
「くそ、そんなのありかよ!」
後ろから追撃に来た佳果は、生えている大砲を次々と破壊しつつ、パリヴィクシャを抱えて離脱した。他の魔物たちについても、シムルが瞬間移動で元の位置へと戻してゆく。さなか、アーリアは"ノックバック"の効果がある蹴りを繰り出し、強制的に敵を後方へと押しやって距離を稼いだ。これらの機転により、一同は反撃を喰らうことなく、態勢を立て直すための時間を得た。
「おい佳果、あれはまさか……」
「ああ、今の攻防で確信したぜ。あいつは倒すたび、強くなって復活しやがる」
「なっ……!」
「最悪だね。これで、あの魔獣を討伐できる可能性はほとんどなくなった」
楓也の言うとおり、たとえ数や戦術で相手を凌駕しようとも、蘇生自体を止める術がなく、あまつさえ成長されてしまうようでは手がつけられない。できるのはせいぜい、町に被害が拡大しないよう足止めに専念することくらいであろう。しかし長期戦になるほど、ジリ貧に追い込まれるのも必至である。
「チャロちゃん、ウーちゃん。何か良い手はございませんでしょうか?」
蹴りの反動を使って後方宙返りをし、着地したアーリアが両名に尋ねた。ウーは真面目なトーンで答える。
「……方法がないわけじゃないよ。たとえば封印とか無明荒野に飛ばすとか、そういうやり方もある。でも……」
「それはつまり、アパダムーラに囚われている夕鈴、またはトレチェイスさんの魂を諦めるのと同義になります」
「!」
チャロの言葉に顔を曇らせるパリヴィクシャ。その反応を見てガウラは思った。魔境の集落で話したときは"出来の悪い"などとそっけない言い草をしていたが――この表情は、弟を大切に思っていることの証左に違いあるまい。佳果もすぐにそれを看破し、彼の気持ちを痛いほどに理解する。夕鈴しかり、人質を取られている以上、選択肢はひとつしかない。
「……別の方法を探すぞ。きっと何かあるはずだ。ムンディも黒龍と打開策を用意するって言ってたんだろ? だから今はとにかく、持久戦に持ち込んで時間を――」
「カイセキ カンリョウ シマシタ」
突如、無機質な声が辺りに反響した。嫌な予感がして音のほうを見遣ると、そこには先ほどまでとは比べ物にならないほど、多種多様な重火器を纏ったアパダムーラの姿があった。
「センメツ カイシ シマス」
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