第206話 開戦
チャロから『WARNING』の文字が送られてくる。
この合図が届いたということは――。
「ッ……お出ましかよ……!!」
佳果の瞳が、ひずみから出てくる不気味な六角柱の魔獣をとらえた。このE地点が戦場となるのは最も避けたかったパターンではあるが、やむを得まい。彼はチャットに用意しておいた文字「E2」を打ち込む。それを確認したシムルの心臓が、ドクンと跳ねた。
「!! 兄ちゃんのところか……!」
「もう一方はD1……零子のいる地点だな。では作戦開始だ、参るぞ!」
まずはノーストがラムスにいるメンバーを全員、転位魔法でE地点に飛ばし、自らはD地点へと飛んだ。そして他の地点に待機中の皆は、例によってシムルが移動させる手筈となっている。
(よし! 慌てず、まずはじーちゃんから……!)
彼がA地点にいるガウラのもとへワープするのと同刻、ノーストは既に白竜と視線をぶつけ合っていた。その両者の間には、唖然とたたずむ零子がいる。どこか神々しくすらあり、魔獣に似つかわしくない姿――彼女は標的に目を奪われてしまっていたようで、はっとして振り返ると、驚いた表情で言った。
「あ、あれ!? ノーストさん、魔物の皆様は……!?」
「向こうの支援に回ってもらった。……零子、うぬはくれぐれも前線に出るなよ。昌弥との再会を果たすためにも、生存を最優先しろ。これは餞別だ」
彼に強力な防御魔法をかけてもらい、「あ、ありがとうございます」と答える零子。その瞬間、迎えに来たシムルによって彼女はD地点から離脱した。直前、不敵に笑ったノーストが超スピードで飛来する白竜の鉤爪を、がっちりと魔剣で受け止める様子が見て取れた。
(――ノーストさん、どうかご武運を! ……でも……あの白竜は……)
◇
「予想に反して動きがないね」
楓也が警戒しながら相手を凝視する。六角柱の魔獣はひずみから出て早々、低空でホバリングを続けている状況だ。その隙に仕事を終えたシムルは、ひとまず予定通りに動けたことに安堵した。E地点には現在、全員が所定の位置について臨戦態勢をとっている。
「……好機です。今のうちにバフを済ませてしまいましょう」
そう言うと、チャロは夕鈴の固有スキル《サマーディ》を使った。これは戦闘状態を維持している間に限り、パーティ全体に自動回復を付与する効果をもつ。続いて楓也と零子もそれぞれ固有スキル行使しつつ、補助魔法を重ねがけしていった。フォルゲンの攻撃魔法は周囲に走っている稲妻に掻き消されてしまったが、バリアの恩恵は全員に行き渡る。さなか、零子の報告が木霊した。
「クァエレアの解析、第一段階が完了しました! 対象の名前は『アパダムーラ』、種族は……、……!? すみません、文字化けしててわかりません~!」
「へっ、データ無しってか! まあ元々、この世界には存在するはずのねぇ奴だしな!」
「……さて貴様ら。向こうが動かぬというならば、そろそろこちらから打って出るぞ! 我らに続け!」
パリヴィクシャが先陣を切り、小手調べのフェーズが始まる。予てこのタイミングで出撃するつもりだった佳果とアーリアも、彼の言葉に頷いてアパダムーラへ接近していった。
「ぬ」
事前に伝え聞いていたとおり、敵は一定の間合いに入ると、本体から生えている突起物を大砲の形に変え、迎撃の兆候を見せた。当然、稲妻による牽制もまた健在である。
(しかし……こちらは楓也が張ってくれたバリアに加え、我が種族の秘奥義、"超硬化"によってあらゆる属性攻撃に耐性も得ている。ここは前進あるのみよ!)
果たして大砲からエネルギー弾が発射されるが、彼は真正面からそれを受け切り、六角柱の面に槍を突き刺して、そのまま赤い核を貫いた。同様に、他の魔物たちも次々と物理攻撃を繰り出す。都度、極めて溶解力の高い培養液が飛散するため、彼らはヒットアンドアウェイの要領で適宜、得物を使い捨てて退避を行った。やがて串刺しになったアパダムーラは、浮力を失って地に墜ちる。
「おいおい、流石ノーストさんの部隊だな! こりゃ俺たちの出る幕は――」
「いいえ、ここからが本番ですわ!」
真剣な顔で叫ぶアーリア。彼女の視線の先で、アパダムーラの核が光っている。次の瞬間、無数の光線が全方位に向けて放たれた。
楓也と零子の固有スキルですが、こちらは第12話および第72話で
効果の説明がありました。以下その抜粋です。※念のため。
《フォルゲン》
三つの要素をともなう魔法を、二つ同時に行使できる。内容はランダムだが、敵対者へ状態異常を付与するデバフ作用のある攻撃魔法に加えて、味方へのバフと耐性付与などの効果が得られるバリアを展開できる。
《クァエレア》
周辺のプレイヤーやNPC、モンスターを解析することができ、使うたびにレベルや能力値といった詳しいデータを得られる効果をもつ。クールタイムは一分で、七回行使すると解析完了、大概の情報が透視可能となる。
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