第204話 どちらの
《……まいったな》
"門"の前にて、念話によるウーの報告を聞いたムンディが頭蓋骨を掻いている。
――本日未明、はざまを守護する精霊八咫烏と天使らが魔獣たちの足止めに失敗した。相手は異常なまでの戦闘能力を有しているだけに留まらず、未だ成長を続け、さらにその脅威度を上げているという。ウーは深刻な声色で続けた。
『魔獣のアスターソウル入りは、もう目前に迫っている。こちらも最低限の策は用意したけど……予定より進行が早すぎて、正直かなり心許ない状況だね』
《ま、当然そうなるよな……。クソ、俺様が動ければ"魔神パワー"で多少なりとも戦局を変えてやるのに》
彼は現在、謀叛を悟られぬよう水面下で動いている。格上の力を持つ上司が絡む以上、表立った干渉は消されるリスクを高めるからだ。
《……今は我慢せよムンディ。万一私たちが捕捉された場合、万策尽きるのは必至。ここで無明荒野に飛ばされてしまっては、元も子もない》
《弁えてるよ。しかしいいのかクルシェ? このままだとあんた、眷属が……》
ムンディの隣で人型を象り、長い黒髪をなびかせる中性的な存在――クルシェと呼ばれた龍神は、彼の問いかけにまっすぐ答えた。
《今の私は黒龍、そして彼は志を共にする家族だ。我々は最後まで、この役割に恥じぬよう世界に尽力するのみ》
《……ウーはそれで納得できるのか》
『吾輩は主様のお役に立てるなら何でも本望さ♪』
《……見上げた忠誠心なこった。けど、陽だまりの風はどうするんだよ》
『ヨッちゃんたちなら大丈夫! 彼らには太陽神様がついているわけだし』
《太陽神ねぇ。なあクルシェ、こんな劣勢であいつが勝てる見込みなんてあるのか?》
《無論。彼女は今や、上位誠神に相応しい神格に昇華している。私や汝のすべきは、その正道を影から切り拓き、支えること――昔とそう変わらない》
柔らかく微笑むクルシェ。ムンディはつまらなそうに「あっそ」と言って、眼前に広がる漆黒を見つめた。
(さて、一世一代の大勝負。……宇宙はどちらの意志を尊重する?)
◇
「マジかよ!?」
同じくウーの報告を受け、焦りの表情を見せる佳果。昨日諸々の準備に奔走していた陽だまりの風は、一晩休んでから再びラムスに集結し、追加の対抗策を練っている最中であった。残された時間は少ないことを知らされ、各々起きぬけの頭が一気に覚醒してゆく。
「……まだ色々と不十分ですが、こうなってしまった以上はやむを得ません。皆様、配置につきましょう。実際に魔獣が出現するタイミングにつきましては、直前になればわたしが次元の揺らぎを感知してお伝えできるかと存じます。それまでは現場で待機――心の準備をしておいてください」
チャロの言葉に、一同はかつてない緊張感に包まれながら頷いた。
決戦の時が、刻一刻と近づいている。
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