第203話 戦禍
《ぬう……あれらを野に放つわけには――》
次元のはざまで、翼がボロボロになった八咫烏が肩で息をしている。その横では、折れた槍を地面に突き立て、もたれ掛かる天使の姿があった。
《……私どもは最後の砦。ここを突破されてしまえば、彼らが星魂世界に至るのは時間の問題となるでしょう》
《しかし如何ともしがたいぞ。百戦錬磨のわれらでさえ、あの熾烈な応酬に巻き込まれぬよう立ち回るだけで手一杯だというのに》
八咫烏の瞳には、激しく争いながらはざまを進む二対の魔獣が映っていた。
片や、水色の培養液で満たされた透明の六角柱から、鉄骨をねじり絞ったような突起物が無数に飛び出ている謎の浮遊体。中心部には赤い核があり、周囲には常に稲妻が走っている。液は複数の面から漏れ出しており、こぼれ落ちた先にあるものをすべて溶解させ、更地へと変えてゆく。さらに突起物は外敵が近づくと一瞬で兵器に変形し、無尽蔵の弾幕を張って迎撃してくる。
(あちらは迂闊に手を出せぬ。そして……)
片や、巨大な光の輪を背後に携えた二足歩行型の白竜。鎌のような鉤爪を持つ両腕を翼とともに広げているが、羽部分はジェット噴射のごとく高出力で放散されるエネルギー粒子で成り立っているようで、目にも留まらぬ速さの飛行を可能にしていた。
(こちらはそも、捉えることすら叶わぬか。……なぜこのような尋常ならざる魔獣が鎬を削って進撃している? 粒子精霊殿の報告では、上位の思惑が入り乱れているとのことだったが――)
《! 八咫烏殿、来ますよ!》
《くっ……奴の動力は底無しか!》
六角柱の魔獣が俄に、上方を旋回する竜に向かって全ての突起物を重火器のように変え、照準を合わせた。まもなく撃たれた"空劫砲"――その衝撃波は凄まじく、八咫烏と天使は互いに協力してバリアを張るが、いくらか威力を軽減しただけで無惨にも破壊されてしまう。さらなるダメージを被り、両者が倒れ込むいっぽう。これを高速移動で巧みに躱した竜は反撃に転じた。
「ォォオオオ!!」
唸るような咆哮を伴って、神速の爪牙が襲う。砲撃の反動で生じた隙が禍したのか、六角柱は為す術もなく重火器ごと切り裂かれ、地面に墜落した。ところがすぐに赤い核が光り、まるで何事もなかったかのように再浮上する。その様子を伏しながら片目で観測した天使は、伝え聞いていたよりもはるかに危険度の高い彼らに戦慄していた。
(もしや、あれらは……戦いのなかで成長しているのでしょうか? このままではあの世界が…………せめて、せめて情報だけでもお送りしなければ)
天使が念話によってウーに状況を伝えるさなか。魔獣たちは次なる地を求めて、また規格外の攻防をしつつ遠くへと消えていった。
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