第202話 対応策
ウーがガウラに古代魔法を調べさせた理由――それは固有スキルを元にした魔法を創造するためであった。定石に則って、既存の魔法同士を掛け合わせると思っていた刻宗は、予想の斜め上を行く依頼内容に面食らっているようだ。
「固有スキル……星魂世界において、一人にひとつずつ与えられている異能ことであるな。同じものは存在せず、それぞれ唯一無二の効果をもっているとか」
「そのとおりじゃ。そしてわしの読みでは、スキルも魔法も現象という意味では同じはず。ならば魔法陣への変換も可能だと思うのじゃが……難しいかのう?」
「うーむ、如何せん前例がないゆえ、確約はできかねる次第。しかしその着想……すこぶる面白い! やってみる価値は十分にあろう」
「おお、まことか!」
刻宗は研究心に火がついたらしく、愉快そうに頷いた。
「ではまず手始めに。そのラクシャマナクとやらを、実際に見せてくだされ」
「がってん!」
今回ガウラは、昨晩と同じくウーの箱舟とムンディの結界無視という特例をもって魔境入りを果たしている。この流れを予想してスキルを温存していた彼は、意気揚々と障壁を展開してみせた。初めて見るバリアに、関心を示す刻宗。
「ふむ……言わずもがな、防御の類とお見受けするが。こちらの効果は?」
「端的に申せば、自分に不利益となる一切の事象を、一度だけ拒絶・無効化する絶対防御といったところじゃな」
「なんと! そのような強力な固有スキル……そなたは此度、どう描き換えるおつもりなのか?」
「フフ、それはずばり――効果の適用範囲を広げたいんじゃ! 近くにいるパーティメンバー、その全員に行き渡るようにのう!」
◇
「"空劫砲"?」
ガウラが諸々の準備を進めていた頃。佳果はシムルの実家にて、父親であるゼイアとサシで話していた。彼は聞き慣れぬ単語を聞き、佳果にオウム返ししている。
「ああ。これから襲撃してくる魔獣のうち、片方の奴が稀に使ってくるすげぇ威力のビームなんだとさ。いま俺のダチが、それの対応策を得るために魔境――ノーストさんの故郷まで遠征してくれてるんだけどよ」
「おお、ノーストさんの! ……ちなみにすげぇって、どのくらいすげぇの?」
「ウーの話じゃ、町ひとつくらいなら軽く吹き飛んじまう規模らしい」
「!? おいおい佳果、お前らそんな危険な相手とやり合うつもりなのかよ!?」
「…………ああ」
「か~、せっかくこうして水入らずで話せるようになったっつーのに! お天道様の導きってやつは、次から次へと無理難題が降ってきてかなわねぇや」
隻腕のゼイアは、残っている右手で湯呑の茶をくいっと一気に飲み干した。そうしてため息をつくと、しみじみとつぶやく。
「――けど、世界を救うためには"誰かが"その災厄を引き受けなければならねぇ。んでもってそれは……お前たち陽だまりの風が背負ってる役目。そうなんだよな?」
「ああ。…………ごめん、父さん」
「がはは、謝んなくていい。その代わり、ひとつだけ約束しろよ佳果」
「?」
「――お前と、お前の大切な人たち。守るのは、その両方だってことを忘れるな」
彼の深淵にあるものを見透かすように、ゼイアはそう言って拳を突き出した。佳果はすぐに、あの日交わした夕鈴との約束を思い出す。
『これからは……あなたとわたし、二人のことを守って』
彼女の声が脳で再生された瞬間、佳果はふっと優しい表情になった。
「クク」
「ん? どうした?」
「大丈夫だよ、父さん。俺がみんなを大切に想ってるのと同じように……みんなも俺を大切に想ってくれているんだって。それはもう、疑うのがバカバカしくなっちまうくらい……俺の魂が、よく知っていることだからさ」
拳を突き返し、二カッと笑って返事をする佳果。ゼイアは少し驚いた様子だったが、すぐに彼と同じ笑顔をつくり――たいそう満足そうに、息子の頭をわしゃわしゃと撫でまわした。
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