第200話 協力
「ごめんなさい、二人とも。お話の途中でたいへん失礼しました」
戻ってきたフルーカが申し訳なさそうに、謝りながら席についた。サブリナはてきぱきと三人分の紅茶を淹れ、お菓子を添えて「どうぞ」とテーブルへ置く。
「ありがとう姉ちゃん!」
「これ、わたしが好きなやつ……!」
「はは、以前お越しいただいた際、お気に召したと伺いましたゆえ。僭越ながら同じものをご用意いたしました」
「サブリナはいつも気が利くわね。……あら、でもあなたの分がないようだけど」
「いえ自分は……」
「そうだ、ならわたしが淹れてあげましょう。ちょっと待って――」
「わ、わかりました女王陛下! こちらでやりますから、どうかそのままで!」
普段クールなサブリナも、フルーカの前では形無しである。二人の朗らかな関係性に、シムルとヴェリスは顔を見合わせて笑った。
◇
程なくして、席についたサブリナを交え本題に入る一同。
フルーカはシムルの懸念を聞き、ふむと顎に手を当てた。
「"ひずみ"……シムル君、それは全部でどのくらい見つかったの?」
「んとね、五箇所あったよ。まずヴァルム方面に一つ、それと今話した、このお城に近い場所に一つ。まあ一応どっちも僻地ではあるんだけど……他の三つと比べると人里との距離が近くってさ」
マップを出し、その危険性を説くシムル。戦闘が始まったあと、魔獣がどのような動きをするかは正確に予測しがたい。万が一逃走された場合など、もし足止めに失敗すれば、町に被害が及ぶ可能性も考えられるのだ。
「もちろん、できるだけそうならないように頑張るつもりだ。でも予防線で、ヴァルムとアスター城下町には避難勧告を出しておいて、随時誘導とかも行ったほうがいいんじゃないかなって」
「……確かにそうするのが無難ね。サブリナ、頼めるかしら」
「はっ。全霊であたります」
「あとは……二体の魔獣が、同じひずみから出てくるとは限らないわね。もしそれぞれ違う地点で出現したときの対処方法も、今のうちに考えておかないと」
「それなら大丈夫だよ、おばあちゃん」
「? 何か妙案でもあるの?」
「うん、シムルが瞬間移動を使えるようになったから。予め一人ずつ五箇所で待機しておいて、実際に魔獣が出てきた場所にいる人が、チャットでみんなに合図を送るの。そしたらシムルの瞬間移動で、全員を集めて適正配置につける予定なんだ」
「! シムル殿、とうとう瞬間移動をモノにしたのですか!」
「ああ、明虎さんのお陰でね! といっても、おれのこれは愛の光がある存在じゃないと動かせないから、魔獣側を強制移動させるのは無理でさ。あくまでも作戦通りの陣形を組むところまでしか、役に立てそうになくて……」
「いえいえ、それでも十分なアドバンテージですよ! すごいですね!」
興奮気味に称えるサブリナに、シムルは気恥ずかしそうに頭をかいた。いっぽうフルーカは、明虎の名を聞いて考え込む。
(……そう、あの人が……彼は今、どこで何をしているのかしら? おそらく、また独りであれこれ奔走しているのでしょうが……)
「ちなみに二手に分かれた場合の配置だけど、片方はノーストさんと配下の魔物たちが、もう片方はおれたちが担当するぜ。……出だしの戦略はこんな感じかなあ」
「なるほど、おおよそイメージは掴めました。では次に、戦術のほうを――」
◇
こうして、無事に王国との協力を取り付けたヴェリスとシムル。
二人がラムスに戻る頃には、準備を始めて一日目の夜を迎えていた。
――その同時刻。
ガウラは再び、ノーストとともにあの隠れ里に訪れている。目の前にいるのは、里長と賢者という二足の草鞋を履く、周治刻宗であった。
「お二方、昌弥を送り届けてくれたこと、心より感謝いたす。して……此度は何用か?」
とうとう200話です。
いつもお読みくださっているかた、本当にありがとうございます!