第199話 変身
深刻な顔をするフルーカ。彼女は先ほど、アスターソウルにて城を訪ねてきたヴェリスとシムルに会い、現在、各種次元が置かれている状況について聞き及んだらしい。
「時間軸移行に、上位魔神の刺客と思しき二対の魔獣。魂を囚われた夕鈴ちゃんとトレチェイスさん、幾分か"在りかた"が戻ったチャロ。そして佳果さんのご家族の転生に加えて、ムンディ様の『因果が不正操作された』という言」
(……改めて聞くと、途方もないのう)
「あらゆる次元を巻き込んだこの現状が、すべて必然であるならば。あの日わたしに"権限"が与えられたことも、今日こうしてあなたがたと見えていることも……あるいは、何か重要な意味を持っているのかもしれません」
「……」
「それで、今回お二方は古代魔法を調べにいらっしゃったのでしたね?」
「うん! だからロックを解除して欲しいんだけど、ダメかにゃ~?」
「とんでもございません。わたしが端末をロックしていたのは、あくまで魔の手合いに書庫を悪用されないようにするため。あなたがたならば、喜んでお貸ししましょう」
フルーカは優しい表情で、端末を操作できるようしてくれた。再びガウラが画面の前に立つと、ウーは無言で頷き、彼に検索を促す。
そうして"古代魔法"と入力すると、遠くの棚からひとりでに一冊の本が飛んできて、勝手にパラパラとページがめくられてゆくではないか。それに伴い、書かれている内容が概念として浮かび上がり、直接あたまのなかに入ってくる。まるで、情報の洪水に飲み込まれるような感覚。
「むお、なんじゃこれは……文字が、言葉が、心が……融けてゆくぞい!」
脳に鮮烈な衝撃が走り抜ける。
そして浮かび上がる、見たことのない謎の魔法陣。
ガウラは俄に、凝縮された知見を得るに至った。
◇
(女王様、どうしたんだろ?)
アスター城の一室で、シムルがテーブルに頬杖をついている。彼は先刻まで零子とともに魔獣の出現ポイントとなる"ひずみ"の調査を行っていた。それが無事に完了したため、現在はヴェリスをつれてフルーカに会いに来たところであったのだが――彼女は話が始まって少しすると、急に奥へ引っ込んでしまったのだ。側近のサブリナいわく、何やら取り込み中らしい。
「申し訳ありません、シムルく……いえ、シムル殿、ヴェリス嬢。陛下が戻り次第、すぐに連絡いたしますゆえ。もう少々こちらの部屋でお待ちいただければと」
そう言い残し、わたわたと出てゆくサブリナ。どうやら忙しいタイミングで出向いてしまったようだ。
「うーん、ここからかなり近い地点にも"ひずみ"が見つかってるからなぁ。早いとこ城下町に住んでる人たちの避難誘導とかについて相談しておきたいんだけど……」
「(じー)」
「てか今回の魔獣って相当やばいみたいだが、フィラクタリウムの魔除けが効いたりするのかな? だったら近隣住民にだけでも先行して配ったほうが――いや、でもそれだと悪徳が横行するからダメって前に女王様が……」
「(じー)」
「? どしたよヴェリス」
「……シムル、なに。その見た目」
「見た目? ……あ、そっか! さっき零子姉ちゃんに変身させてもらったんだった!」
彼は丈の長い小洒落たアウターを羽織っており、アクセサリーも増え、全体的に見たことのないコーディネートになっている。それだけであれば、ひとまずイメージチェンジをしたのだろうと納得できるのだが――なぜか身長が大きく伸び、顔つきまで大人びているのだ。
「変身?」
「ああ。姉ちゃん、初めて会った時に姿を変えるローブ着てたの覚えてるか? あれって髪の色とか長さだけじゃなくて、見た目の若さとかもいじれる類のアイテムらしくてさ。しかも装備とは別枠で、能力に支障もないんだとさ」
「……」
「で、思いきって背伸びしてみた。その……お前ばっか成長してて、ちょっとズルいじゃん。だから少しでも追いついてやろうって拵えたんだけど……やっぱ中身がこんなガキじゃあ釣り合わないか……」
「――そんなことない」
「え?」
「シムルは元々、わたしよりも大人。今の姿のほうが……似合ってる感じ、する」
「ホ、ホントか? ……はは、そうやって素直に褒められると、なんか照れくさいな……」
困り顔で笑うシムル。彼は未だ、"釣り合い"とやらを気にしていたようだ。しかしあの時も言ったように、バランスなんてとうに取れている。
(まあ別に、どんな見た目だって……シムルはかっこいいけどね)
ちらと見た彼の横顔に、ヴェリスは自分の心臓が少し跳ねるのを感じた。
二人が似たようなやり取りをしていたのは
第52話の後半でした。懐かしいですね。
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