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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十二章 愛の因果律 ~掴みかけた夢~
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第197話 書庫

「遅いのう……何かあったんじゃろうか」


 エレブナの近くにある『化霞かかの滝』。ガウラは一人ベンチに腰かけ、遠方えんぽうなく降りそそ霧状きりじょう瀑布ばくふながめていた。――定刻ていこくからかれこれいち時間じかんほど待っているものの、相手が来ない。もしや、場所自体(じたい)を間違えているのだろうか。


(む? あれは)


 いよいよ不安が強まってきたタイミングで、視界のはしに変化がおとずれる。付近のかすみが一箇所にあつまり、独特の笑顔が浮かび上がった。


「ごめんねガーちゃん! 話を持ちかけたのは吾輩わがはいなのに、すっかり遅くなっちゃって!」


「おお、ウー殿! なに、わしなら大丈夫じゃて!」


 彼が待ち合わせてしていたのはウーだった。実は魔境から運んでもらったおり、ムンディとの情報交換が終わったあと、秘密裏ひみつりにここで会う約束を交わしていたのだ。


「ありがとう! ……よし、誰にもあとはつけられていないみたいだね」


「うむ、町まではシムルに運んでもらったんじゃが、そこから先は約束どおり単独でここまで来たぞい。して、"わしにしかできぬこと"というのは一体?」


「ちょっと待っててねー」


 そう言うと、ウーが謎のモクモクをつくりだし「さあ乗って!」と催促さいそくする。言われるがまま、恐る恐るわたあめのようなそれに足をのっけるガウラ。不思議と底は抜けず、さながら白い觔斗雲きんとうんに立っている気分だ。


「じゃ、しゅっぱーつ!」


「? どこに行くんじゃ?」


「それは着いてからのお楽しみさ♪」


 ウーが雲をあやつり、どんどん滝のほうへと近づく。やがて滝の頂上を越え、その向こうがわまで進むと、さらなる濃霧のうむが充満する空間に出た。もはや白以外に何も見えぬ視界が広がっており、ガウラは自分がいま何に乗っているのか、どこにいるのかすらよくわからなくなってきた。この、世界からはみ出ているような特有の感覚――はっとして、彼は確認する。


「ウー殿、そこにおるかのう」


「うん、いるよ~」


「ここは……既にアスターソウルではないと見た。別の次元じゃなかろうか?」


「お、さすがガーちゃん! 人の身で魔境を歩いてきただけのことはあるね! ……そう、ここはもうアスターソウルとは別の次元。"書庫"の入り口なんだ」


「書庫……?」


「うん。聞いたことはない? 実は世界中の人々がもっている知識や記憶って、ある次元では一箇所にまとまって蓄積ちくせきされているとか、そういううわさ


「! ……察するに、シムルがみなに話していた集合意識というやつかのう?」


「ん~しい! 厳密にいうと、その集合意識の先にある絶対的で不滅の記録媒体。それが書庫だよ。確かあなたたちの世界では、アカシャとかアカシックレコードと呼ばれているね」


「なんと!? その名……昔やったゲームで見たことがあるぞい!」


「おお~、なら話がはやそうだ!」


 ――こうして二人が問答もんどうしているあいだにも、刻一刻こくいっこくと辺りの景色は変化してゆく。気がつくとガウラは、所狭ところせましと並んだ本棚が、上を見ても下を見ても、際限なく全方位に続いている巨大な図書館のような空間にたたずんでいた。そんな"書庫"の中心部へ雲を移動させたウーは、ぼふんと猫に変身すると、目の前にある検索システムのような端末たんまつに飛び乗る。


「……ははぁ、これを使ってわしに、何かを調べろというわけじゃな」


「そのとおり! あなたには今から、古代魔法について調べて欲しいんだ」


「古代魔法……たしか昌弥まさや殿が世話になっていた里長さとおさ――賢者けんじゃ刻宗ときむね殿が得意とする魔法じゃったな。あの時は実際にきょうめつけっという名の魔法見せてもらったんじゃが、空間に干渉かんしょうする効果もることながら、その響きに思わずしびれてしまったわい!」


「ほぇ~、そんな一幕ひとまくがあったんだ……一応、陽だまりの風ではアーちゃんがいくつか使える魔法なんだけどね。彼女のはあくまでも模造品(レプリカ)だから、その賢者さんが使ってたやつが本物ってことになるのかな」


「レプリカ? ……ふむ。まあ、丁度ちょうどわしも色々と気になっていた魔法じゃ。精霊である貴殿きでんに調査の許可をもえらるのなら、まさに渡りに船といったところか」


 ガウラが興味深そうに画面を触る。ところが端末は一向に起動する気配けはいがない。


「ぬ、どうやらセキュリティが働いているようじゃな」


「あれ~ホント!? なんでだろう……前は普通にいじれたはずなんだけど」


「――わたしが、ゲームマスター権限でロックを掛けているからですよ」


 不意に、背後から一人のおばあさんが歩いてくる。その顔に心当たりはなかったが、まとっている服に刻まれたマークには見覚えがある。あれはヴェリスの持っている勲章くんしょうと同じ――国章こくしょう紋様もんようだったはずだ。


貴殿きでんは…………いや、女王陛下(へいか)とお呼びしたほうがよいじゃろうか」


「うふふ、フルーカで大丈夫ですよ。初めまして、粒子精霊様にガウラさん。当書庫へようこそおいでくださいました」

お読みいただき、ありがとうございます!

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