表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十二章 愛の因果律 ~掴みかけた夢~
204/356

第196話 取捨選択

「しっかしよ。ここにきて、こんなゲームっぽいことする流れになるとはなあ」


 遺跡のような場所で、佳果が物陰ものかげから魔獣の動きをうかがっている。すぐ後ろでは楓也とアーリア、ヴェリスも顔をのぞかせていた。


「ホントだねぇ。それにしてもこの状況、なんだか最初の頃を思い出すよ」


「うふふ、みんなでヴェリスちゃんの装備をととのえようとしているわけですものね。今回の調達先はショップでなく、ダンジョンですけれど!」


「……わくわく」


 四人は現在、SS(7)から入場できる『アラムナ』という町を越え、さらに(8)以上から解禁される『ビビダタ』なる拠点近くのダンジョン内にいる。この周辺は砂漠地帯になっており、点在てんざいするピラミッドのようなダンジョンはどれも高難易度の迷宮だ。しかしその(ぶん)手に入るアイテムの性能が高く、挑むだけの価値はあるということで、彼らはゆえあってヴェリスの装備を新調しに来ていた。


「そらよっ!」


 ほどなくして佳果が不意打ちをしかけると、魔獣はそのまま反撃するもなく蒸発じょうはつしてゆく。同時にフロアのどこかで石の扉が動く音がして、彼らはいた場所をくまなく探しまわった。やがて、複数のアイテムが無造作むぞうさに置かれている無駄に広い部屋を発見する。


「これか、宝物ほうもつ庫ってやつは。なんつーか……空間のもて余しかた半端はんぱねーな」


「……思ってたのと違う」


「あはは、てっきり宝箱とかがあるものだと予想していたけど……地べたにじかきって、結構シュールな絵面えづらだね」


「あら? そういえば楓也ちゃんも、ダンジョンはこれが初めてなんでしたっけ?」


「はい、SS(7)以降の地域は初見しょけんなので」


「まあ……わたくしとしたことが失念しつねんしておりましたわ。ええっとですね、この部屋はいわゆる"ハズレ"なんですの。"アタリ"のほうはもっとインパクトがありますから、みなさんどうか気を落とさず、次の階層かいそうまいりましょう!」


「そうなのか。んじゃ、探索再開といこーぜ! その"アタリ"を目指してよ」


「……わくわく!」


 その後、慣れぬダンジョン攻略に難儀なんぎすると身構えていた楓也であったが、アーリアにとって庭のような場所だったことも相まって、実際には特に苦労もせず、四人は最終フロアの宝物庫まで辿り着いた。さいわい"アタリ"を引いたらしく、壁・床・天井てんじょうとすべてが黄金おうごんに輝いている部屋を見つめながら、アーリアは少し後ろめたそうに言った。


「……本当はもっと寄り道でもしながら、道中を楽しみたいところでしたが……わたくしが先導せんどうしたことで、少し味気あじけのない探索になってしまいましたわね。今回は緊急きんきゅうで致し方なかったとはいえ、せっかくの機会を台無しにして申し訳――」


「うぉー! ぜんぶ金ピカじゃねーか! すっげ、俺こんな部屋見たことねぇぜ!」


「キラキラ! ……ギラギラ? えへへ、まぶしい!!」


「宝箱も絢爛けんらんだね! わぁ~どんな装備が入っているんだろう! 着るのはヴェリスだけど、オシャレなやつだと嬉しいなぁ!」


(…………ふふ、優しい子たちですこと)



 いくつかのダンジョンを制覇せいはした彼らはラムスまで戻り、戦利品を整理した。楓也は各種武具の能力値と特殊効果などを比較して、冷静に取捨選択をおこなう。


「これは要らない……こっちは……捨てがたい効果な気もするけど、能力値のほうがそぐわないかな……」


「楓也、どういう基準で選んでんだ? ヴェリスの装備」


「まずはとにかく、防御力(DEF)が高いのが重要かな。ウーから届いた通信によれば、今回の相手はレベルによる補正だけじゃ、たぶん300レベルでも一撃でやられちゃうくらい滅茶苦茶な火力かりょくを持っているみたいだから」


「!? そこまでデタラメなやつらなのかよ……」


「うん。だからいま優先すべきはレベリングではなくて、装備補正が高く、かつそれを強化できるような効果が付与されている装備を選ぶこと。ヴェリスは固有スキル(マイオレム)さえ使えば敏捷性(AGI)がカンストさせられるから、たとえ規格外の相手であっても基本的に被弾ひだんしないと思うけど……防御力を上げるのは、万が一攻撃に当たってしまったときの保険だね。もちろん、ぼくや和迩わにさんがバフをてんこ盛りにして、アーリアさんにも後ろで控えてもらうつもりだよ。その上での保険という意味さ」


「……なかなか手堅てがたいな。ま、不本意ながら最終的にこいつが単騎たんきで攻めるっつー作戦だ。過保護なくらいでちょうどいい」


 ヴェリスのマイオレムは防御無視という唯一無二の効果も持っている。ゆえに規格外の魔獣へまともに攻撃が通る人間は目下もっか彼女以外に存在しないということで、今回の作戦では一通り撹乱かくらん小手こて調べを佳果たちがおこなった後、魔獣のうち一体をノーストが、もう一体をヴェリスが各個かっこ撃破げきはする予定となっていた。


 とはいえ、彼女はこちらの世界の人間。怪我けがをすれば痛むし、致命傷を負えば死んでしまうかもしれない。どれだけ備えても、備えぎにはならない。


「……気休めですが、確率でダメージ軽減が発動する効果も欲しいところですわね。あとはこちらを。以前わたくしが手に入れた、最高レアリティのロケットです」


「? これはアクセサリー枠ですか。どういう効果なんでしょう?」


「特殊スキルが使えるようになります。魔法攻撃に対してのみですけれど、30秒間ほど無敵になれるという効果の」


「! なるほど……物理攻撃は自力でかわせたとしても、広範囲型の魔法が多段で撃たれたら為すすべがないですもんね。ヴェリス、そうなったときはこのスキルを使って全力で逃げるんだよ?」


「ん、わかった。みんな、色々かんがえてくれてありがと」


「当たり前だろ。……こんな危険な役、本当はお前にやらせたくないんだ。だからせめてベストな状態で送り出してやれるよう、俺もトコトン協力するぜ」


 わしゃわしゃと佳果に頭をなでられるヴェリス。久しぶりのぽわぽわした感覚を堪能たんのうした彼女は、魔獣襲来の恐怖よりも――今この瞬間、全員の心が繋がっているという実感と喜びのほうがまさり、顔をほころばせた。


 ふと、先ほど受け取ったアーリアのロケットを開けてみる。その中には、出会ったばかりの頃に撮ったと思われる四人のスクリーンショットが入っていた。そこに映る不機嫌そうな自分が、今はとても懐かしく感じられる。

お読みいただき、ありがとうございます!

もし続きを読んでみようかなと思いましたら

ブックマーク、または下の★マークを1つでも

押していただけますとたいへん励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ