第195話 ワープとサーチ
「ではシムルさん、このエリアから始めていきましょう!」
そう言いながら、自身の固有スキル《クァエレア》を行使する零子。
彼女とシムルは現在、次元のはざまから襲来する魔獣がどこに現れる可能性があるのかを調べるため、二人で動いている真っ最中である。今いる地点は初心者の町、ヴァルムに近い僻地だ。
「お~、張り切っていくぞー! ……で、えーっと。確かこのまま1分後にクールタイムが終わり次第、姉ちゃんがもっかい固有スキルを発動。そのとき生じた"差異"に鑑みて、魔獣がリポップする場所を探っていく……って感じの段取りで合ってるよね?」
「はい! クァエレアの真骨頂はあくまで対象の解析なんですけれども、副次的に魔獣の数と位置を捉えることもできますので。効果範囲はあたしを中心として半径10km以内。この1分間で彼らが不自然に増殖しているような場所が見つかれば、そこに"ひずみ"がある可能性が高くなるというわけです」
事前に聞いたチャロの話によると、魔獣とは例外なく"ひずみ"という時空の裂け目から生じている存在らしい。それは人目につかない僻地にのみ点在し、座標は週ごとに変化するのだとか。直近はおとといの月曜日に変更が掛かったばかりだそうで、いま正確な位置を把握しておけば、数日後の襲撃にも対応できる寸法だ。
「っと、喋っているうちにクールタイムが終わりました。さっそく二回目を発動します! …………あらら? 残念ですが、このエリアは特に異常がないようですね」
「空振りかぁ。ま、この調子でどんどん行こう! さっそく瞬間移動で次に飛ぶぜ? しっかり掴まっててくれよ~姉ちゃん」
「ええ、よろしくお願いします!」
◇
こうして二人はワープとサーチを繰り返し、ひずみが見つかったらマップにマーク、佳果たちに座標情報を送るといった作業を着々と熟していった。
ヴァルムから開始してフリゴ、アラギ、アスター城下町と順調に進んでゆき、やがてエレブナまで至った二人は、昼休憩がてら、以前みなで利用したログハウスのカフェに立ち寄って一息ついた。
「ふー。これでこの世界の赤道以北にある候補地は、軒並み制覇できたことになりますね。エレブナより先の領域につきましては、そもそもひずみが発生しない仕様になっていますから、ひとまず度外視してしまって問題ないでしょう」
「そっか、じゃあ残すは南側だけだね! ……でも、なんでそういう仕様なのかな? 代わりにダンジョンがたくさんあるって話は、前にアーリア姉ちゃんから聞いたことあるけど」
「うーん、実際のところどうなんでしょう……? 今度、一緒にチャロさんに聞いてみましょうか」
「そだね。チャロ姉ちゃんなら知らないことのほうが少ないだろうし」
「――ほいよ、お待たせ」
零子の元へ、不意にバリスタがエスプレッソを運んできた。彼女はお礼を言ってカップを受け取ると、今回はしっかり砂糖を入れてかき混ぜている。その懸命な姿に、シムルは思わず破顔した。
「……あっはは!」
「な、なに笑いでしょうかそれは!?」
「思い出し笑いに決まってるじゃん! あのときの姉ちゃん、面白かったよなあ~! 全然うそつけてなくてさ……ぷっ……」
「うぐ、まだ覚えていたとは……あれは不幸な事故だったんです! 早々に忘れてください!」
「へへ、やーだよっ。今となっては、それもみんなとの大切な思い出なんだから」
「むむむ……と、ところでシムルさん。最近ヴェリスさんとはどうなんですか?」
「……はぁ!? なんだよ急に」
露骨に話題をそらす零子。しかしシムルは質問内容に平静を保てなかったらしく、まんまと彼女のペースに持ち込まれてしまった。
「なるほどなるほど、その様子ではどうやら相変わらずのようですなぁ。まったくお若いのに嘆かわしい」
「いや、相変わらずも何も……別におれは変化を望んでいるわけじゃあ」
「そうなのですか? せっかくあの子と同じくらいの見た目年齢になれる方法を、特別に教えて差し上げようかなぁ~と思っていたのに」
「!?」
ガタっと席を立つシムル。
目の色を変えた彼に、零子はいたずらっぽくニヤリと笑った。
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