第194話 魔剣
「星魂世界が、そんな事態に……」
リザードマンの集落で働く昌弥。彼の元へ単独でやってきたノーストは、各種次元の置かれている状況について、掻い摘んで説明を行っている。
「うぬはそのように呼ぶのだな。あちらのことを」
「え? ああ、里長からそう教わっていたのでつい……正式にはアスターソウルというのでしたか。現実世界の人々からすれば特殊なゲーム世界とのことですが、それはあなたやガウラさんに聞いて初めて知りました。……零子と会える可能性があるとわかっていれば、もっと早く"こうしよう"って、決断できていたかもしれませんね」
昌弥の手には、武器や防具を作るための素材と思われる鉱物や魔獣の骨などが握られている。彼は首長であるパリヴィクシャの指示で、集落の倉庫内にあるこれらの仕分けや、運搬作業を手伝っているようだ。
「何事も始めるのに遅いということはない。うぬはこのまま、何も気負わずに愛珠獲得へ向けて励むとよいだろう。あちらのいざこざは、吾らが必ずや平定する」
「……ありがとうございます、ノーストさん。その……零子を、あの子をどうかよろしくお願いします」
「ああ。守護魔の名に懸けてまもり抜いてみせよう」
「ノースト様!」
二人が約束を交わしていると、パリヴィクシャが割り込んでくる。彼は禍々しくも、どこか神々しい、意匠の凝った巨大な剣を抱えていた。
「お待たせいたしました。久方ぶりの封印解除に少し手間取ってしまいましたが、こちらをどうぞ」
「ご苦労。……やはり手に馴染むな、己が得物というものは」
ブンと片手で素振りをするノーストを見て、昌弥が興味深そうに尋ねる。
「明らかに普通じゃない雰囲気をまとった剣ですね……そちらは?」
「魔剣ドゥシュタ・ニル・ガマナ。吾がこの地で生まれた時からずっと傍にあった、謂わば相棒のようなものだ。守護魔に就くまでの道程で散々世話になったのだが……あまりに強力すぎるゆえ、いつぞやから自主的に封印していた」
「! じゃあ、それさえあれば……!?」
「……どこまで通用するかは正直わからぬ。相手は天使や精霊どもですら後手に回るほどの兇手と聞いているからな。だが無論、勝つつもりでやる。……なに、吾と魔剣が組んで斬り拓けなかった道などない。うぬは安心して吉報を待て」
「フフ、まさに鬼に金棒ですな。しかし我らノースト様の右腕とて、此度は全力で支援させていただきますゆえ。どうか役立ててくだされ」
パリヴィクシャが片膝をつく。開戦の折は、ノーストの指揮下にある魔物たちも動員される予定だ。ただし敵の実力を考慮して、精鋭部隊のみ転位させる算段となっている。
「頼りにしているぞ。……よし、では吾はあちらに戻るとしよう。そろそろ零子がアレを突き止めている頃合いだろうしな」
「? 零子、いま何か探っているんですか?」
「ああ。魔獣どもの出現位置を特定してもらっている」
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