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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十一章 岐路へ立つ魂 ~決意の果てに~
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第193話 みなぎる想い

夕鈴あいつの魂が……喰われて……」


 ガウラから全ての話を聞き、愕然がくぜんとする佳果。有事につき矢継やつばやの調査報告になってしまったが、本来ならばもっとなしくずしに伝えるか、場所や時間を考えて打ち明けるべきだったはずだ。


 予想はしていたものの、先ほどまでの和やかな空気が一転、深刻な面持おももちとなった一同を見て、チャロも神妙になる。その重い沈黙をやぶったのは、冷静に状況を分析ぶんせきした楓也だった。


「記憶の問題がどうなるのかは、まだわからないけど。その魔獣たちを倒せば、押垂おしたりさんとトレチェイスさんの魂は解放されて、元の姿を取り戻すんだよね?」


「そうじゃ。当人らの意志に反している可能性は否定できぬが……"儀式"が完成するかたちになるからのう」


「……押垂さんは一度、トレチェイスさんのためにそれを行っている。そして救われた彼は、彼女とともに愛珠あいしゅを集めたすえ、同じようにぼくにも光をくれた。……今までのことを考えるとさ。これもまた必然なんじゃないかって……そう思うんだ」


「……ん。もしあのとき楓也が結界を壊してくれなかったら、ノーストは魔境に行けなかった。わたしたちは戦うことになって、きっとたくさん命が失われていた。ぜんぶ、繋がってる」


 彼の気持ちに寄り添うようにヴェリスがそう言うと、楓也は大きくうなずいた。


「ぼくたちは彼女を救うために旅をしてきた。でも彼女に救われたからこそ、ここに立っている。……たとえどんな運命が待っていたとしても、この件、ぼくは真正面ましょうめんから向き合いたい。それが唯一ゆいいつ、今までもらってきたすべての愛にむくいる方法だと思うから」


「あたしも楓也さんに同意します。……昌弥(あの人)はあんな理不尽りふじんな目にってなお、優しい気持ちをてられないで、昨日までひとり葛藤かっとうを続けていた。けれどノーストさんたちと出会ったおかげで、やっと前へ進むことできた――なら、あたしが立ち止まっているわけにはまいりません。彼の目指すこのアスターソウルを破壊させないためにも……彼ともう一度、笑い合える日を迎えるためにも。あたしはあたしの意志で、この試練にのぞみます!」


 力強く宣言する二人に、ノーストも便乗する。


「ふっ、うぬらならばそう言うと信じていたぞ。……われは言わずもがな、魔境から出たさびを落とすのは守護魔しゅごまとして当然の責務。加えてこの地には守らねばならぬものが特段とくだん多いからな。魔神ましん指図さしずなど抜きにしても、全霊ぜんれいをもって対処に当たるつもりだ。して、ほかの者の考えは?」


 意思表明を催促さいそくされたアーリアとヴェリス、シムルとガウラは、みな一様に佳果のほうを見る。すると彼はし目がちに言った。


「……母さん」


「……なに?」


「俺さ。夕鈴ゆうりっていう、大切なダチがいるんだ」


「……もちろん知ってるわ」


「あいつは現実世界だろうがアスターソウルだろうが……地獄だろうが魔境だろうが、なーんも変わらねぇ。いつも"誰かのために"って全力で突っ走りやがってさ。目ぇ離すと、すぐどっか遠いとこに行っちまう」


(阿岸君……)


「けど俺は、そんなあいつだからこそ……迎えに行って、助けてやりてぇんだ。たぶん、いや、絶対に危険な橋を渡ることになる。みんなが傷つくかもしれない。それでも俺は……!」


「――好きなのね、夕鈴ちゃんが」


「!」


「そしてそれと同じくらい、ここにいるみなさんのことも愛している。ちゃんとわかっているわ。……うふふ、だったら、わたしからおくる言葉はひとつだけ」


 ナノはゆっくり席を立ち、佳果とシムルの頭を優しく撫でた。


「いってらっしゃい」


 様々な感情のこもったその一言は、二人の心に不撓ふとう不屈ふくつの勇気を与えた。いつもの調子を取り戻した佳果は、揺るぎない信念を瞳にともして拳を握りしめる。


「ってなわけでよ。お前らも……ついてきてくれるか?」


「ふふっ、出会ったばかりの頃にも申し上げたかもしれませんが、わたくしたちは運命共同体。あなたの行く道にわたくしがおともするのは、わば自然の摂理せつりなのです。どうか今回も力にならせてください」


「兄ちゃんが守りたいものは、おれだって守りたい。それに……ヴェリス(こいつ)の居場所をおびやかす存在を、黙って見過ごすなんてできないよ。おれはそのために、つよく在ろうって決めたんだから」


「わたしも同じ。もう二度と、佳果の家族を奪わせはしない。だから全員が助かる方法を一生懸命かんがえる! おばあちゃんにも相談してみるよ!」


「ヌハハ、佳果よ、おぬしは恩人じゃ。ともに"逃げた先"で絶対的な困難が待ち受けているこの状況――さっそく恩返しのチャンスが巡ってきたと、わしは今から武者むしゃぶるいが止まらんわい。相手にとって不足なし、いざ尋常に完全攻略とまいろうぞ」


「…………そうか。……ありがとう、みんな」


 佳果は、初めて見る柔らかであたたかい笑顔をみなに向けた。浮かび上がった彼の本質に、全員の士気しきが最高潮に達する。そのあふれんばかりの光に当てられて、チャロは満足そうに、にんまりと目を閉じた。

 ――今日も今日とて、陽だまりの風が世界を吹き抜ける。

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