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第12話 不可抗力

 ほどなくして廃村に到着する。放置されてから長い時間が経っているのか、散見される建物はボロボロだ。窓が割れ、屋根が落ちて野ざらしになっている住宅もある。その中でも比較的、状態の良い施設が村のはじっこにたたずんでいた。


「あれは、教会のたぐいでしょうか」


「見た感じ、雨風をしのぐなら一番(てき)していそうだけど……」


「……ああ、たぶんあそこだ。食いもんの匂いがただよってくる」


 先頭を歩き、ずんずんと施設に近づいてゆく佳果。すると中から、みすぼらしい格好のこどもが姿を現した。ペリドット色の長髪は泥でくすみ、光を失ったシャンパンゴールドの瞳は、虚空こくうを見つめているかのように深い絶望に染まっていた。

 わかっていたつもりではあるが、実際に目の当たりにすると言葉を失ってしまう。あれは――こどもがしてよい表情ではない。


「おい、お前……」


「わたさない」


 恐る恐る呼びかけた佳果に、こどもは感情の死んだ声ではっきりそう言った。

 刹那、目にも留まらぬ速さで駆け出し、彼のふところ目掛けて攻撃を繰り出す。


「!? ぐっ」


 咄嗟とっさに両腕をクロスして身を守る。ぎりぎり反応は間に合ったが、佳果は勢いよく吹き飛ばされ、後方にあった木に叩きつけられた。全身に強い衝撃が突き抜ける。


「阿岸君!!」


「大丈夫ですか!?」


「……痛ってぇ! アーリアさん、あいつプレイヤーみたいだぜ!」


「そ、そんなはずは……」


「! 次が来るよ!」


 ゆらりと助走をつけ、再び超高速で襲いかかってくるこども。その動きを見切ったアーリアは、二人をかばうように前方ぜんぽうへと飛び出した。先の攻防を見た限り、相手方あいてかたの素早さが脅威きょういなのは間違いない。だが、まだレベル30に到達したばかりの佳果がガードに成功している以上、攻撃力そのものは高くないと思われる。ならばステータスのアドバンテージにより、レベル270の自分がダメージをこうむることはない――そう目測して攻撃を受けたのは、軽率な判断だったか。


「きゃっ……!?」


 佳果の時と同じく、思い切り吹き飛ばされてしまうアーリア。彼女は空中でぐるぐると後方宙返りを繰り返しながら徐々に均衡きんこうを取り戻し、ずざあと土煙を上げながら着地した。


(いったたたぁ……これ、あの子の固有スキルによるものかしら? AGIの爆発的な上昇――それだけでも脅威なのに、防御無視(・・・・)の効果まであるなんて!)


「阿岸君、ちょっと下がってて。ぼくが固有スキルを使う」


「楓也? 今の見たろ! 一番つよいアーリアさんが削られてんだ、ここは退却して体勢を……」


「そうだね。でも、アーリアさん一人ならまだしも、ぼくたちのレベルじゃあの子の追撃から逃げるのは無理だと思うよ。それに、あの子が本当にプレイヤーなら……やられてしまった場合、強制切断が起きることになっちゃう」


 ロッドを華麗に回して地面に突きたて、彼はスキル発動の準備に入った。

 こどもは何かを察したのか、少し後方へと下がり様子見している。


「もしそうなったら、かなりまずい。プレイヤー間の争いなんて滅多に起きないから、全然知られてないんだけど……強制切断されたプレイヤーは、その日から半年間、再ログインが制限されるんだ」


「なっ……!」


「そう、あまり時間的な余裕がないぼくたちにとってそれは致命的なタイムロス。だからこの場であの子を制圧しないと」


 楓也は固有スキルである《フォルゲン》を使った。フォルゲンは三つの要素をともなう魔法を、二つ同時に行使できる。内容はランダムだが、敵対者へ状態異常を付与するデバフ作用のある攻撃魔法に加えて、味方へのバフと耐性付与などの効果が得られるバリアを展開できる。30分に一度しか使えない、非常に強力なスキルだ。


 今回は全ステータスを下げる麻痺効果のある風魔法と、AGIを上げつつも全属性耐性を付与し、2回までなら物理攻撃を無効化するバリアが発動した。


「よし、当たり枠だ」


 こどもは風魔法を完全には避けられず、身体がしびれたのか膝をついて動きが止まった。その隙に、回復魔法で復活したアーリアが戻ってくる。


「楓也ちゃんのおかげで、はこちらにあります。ひとまず拘束してしまいましょう」


「……いや待て、なんか変だぞ」


「あれは!?」


 こどもの全身から黒と赤のオーラが出ている。そのまがまがしい様相に戦慄せんりつしていると、気づけば楓也のみぞおちに強烈なキックが入っていた。何が起こったのかわからず状況を理解しようとしているうち、今度はアーリアの背中に拳打がヒットする。

 地面にころがった二人は、不幸中の幸いか体力は残っているらしく、強制切断は起きていない。だが、どうやら今の攻撃で気絶してしまったようだ。


「く、くそ……!!」


「わたさない」


 ひとり残った佳果をにらみ、こどもはまた同じ調子でそう言い放つ。


(こいつ、スキルを複数もってやがんのか!? まったく動きがわからねぇ……! アーリアさんのスキル無しで……俺だけで、この場を立て直せるか!?)


 アーリアの固有スキル《ユピレシア》は、パーティ全体に気つけ、全回復、全状態異常とデバフ解除をもたらした上で10秒間の無敵効果も得られるが、12時間に一度しか発動できないため、使いどころが難しいスキルだ。

 彼女は、まさか気絶するほど追いつめられるとは考えていなかったのだろう。今回は未使用のまま沈んでしまったが、仮に発動していたとして、この相手では姑息こそくな処置にしかならなかったかもしれない。


 佳果の視界からこどもが消える。

 "飛び上がったのだ"と把握した時にはもう、迫りくる拳が眼前にあった。

 万事休す――そう思った瞬間、彼の内ポケットから虹色の輝きが発生する。


「これ、ばあさんの……!」


「!?」


 佳果の持っていた"太陽の雫"のまばゆい光が、辺り一面をおおいつくした。

お読みいただき、ありがとうございます。

何もろうとしてないのに……

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