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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十一章 岐路へ立つ魂 ~決意の果てに~
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第191話 かつては

「わ、わかんない……でも和歩かずほって響きにおぼえはあるし……兄ちゃんの魂が、本当に"兄ちゃん"なんだって……そういう感覚もあるんだ……はは、なんだこりゃ……」


「――」


 シムルと出会ったばかりの頃、「もし弟が生きていたら、これくらいの年齢になっていたんだな」とか。「弟が生まれつき身体の強い子で、もっと一緒に遊んだり話したりできていたら、きっとこんな感じだったんだろうな」とか。佳果の脳裏のうりに、ふとそうした考えがよぎることがあった。


 しかし彼はシムルだ。勝手に和歩と重ねるのは無礼ぶれいで、滑稽こっけいで、未練みれんがましいと思っていた。だからそのたぐいの感情が起こった時は、見て見ぬふりを押し通してきた。しかし今はわかる。わかってしまう。彼はシムルであり――同時に、たった一人の弟でもあるのだと。ゆえに抑えられない。


「……くっ……うぅ……」


(あ……)


 佳果の泣き顔を見たのは三度目である。ヴェリスはよく知っていた。彼の涙は決まって、自分自身でなく人のために流されることを。これは再会の喜びというよりも――。


「……こっちでも、つらい目にあってたんだな……でも今は……笑えるようになって本当によかった……母さんと父さん(・・・・・・・)も……」


「兄ちゃん……にい、ちゃ……っ……」


 シムルも大粒おおつぶの涙を流す。たまらず、ひしと抱き合う二人。その光景は表現しがたい欣幸きんこうと哀愁を帯びており、後からやってきた事情の知らぬ楓也たちですら、何も言葉が出てこないほど、おかしがたい美しさがにじみ出ていた。



 ナノが追加でつくった品々の並ぶテーブルを囲み、鍋をつつく一同。話題は当然、先ほど判明した驚くべき事実についてである。楓也と零子は、ついもらい泣きしてれてしまった目を、適宜おしぼりで押さえながら言った。


「まさか阿岸君のご家族の魂が、こぞってこの村に転生していたなんて……その、向こうで何があったか知ってるからさ……色んな感情がごちゃ混ぜになっちゃって」


「すんっ……あたしもです…………あれれ? でも、和歩さんが亡くなられたのって確か、五、六年くらい前だとおっしゃっていましたよね。単に固定観念の問題かもしれませんが、いかんせん時間的な齟齬そごがあるような……」


 零子の指摘どおり、和歩はおよそ六年ほど前、六歳のときに現実世界を去っている。もしその直後に転生していたとしても、現在シムルが十二歳くらいになっているのは一見いっけんすると不可解だ。


「……チャロ(アイ)ちゃん。このラムスの村は、アスターソウルのなかでも隔離された空間にあるという話でしたわよね。察するに、そのことと何か関係があるのではないかしら?」


「さすがですね、アーリアさん。……この場所は元々、特殊なことわりが適用されている領域でした。現実世界(あちら)と比べると、およそ二倍以上の速度で時が流れていたのです。つまりラムスの民にとってシムルさんの誕生は約十二年前の出来事になるのでしょうが、向こうにおいては実質的に五、六年ほどしか経過していなかった。これが齟齬の発生している理由と考えられます」


「なるほど……合点がてんがいきましたわ」


「ちなみにシムルさんは赤ちゃん時代からここで育ったそうですが、ナノさんたちについてはヴェリスさんと同じく、NPCへ転生したパターンのようですね。太陽の雫で前世の記憶を取り戻した彼女とは異なり、こちらでの出来事しか覚えていないという違いはあると思われますが」


「……つーかよ、いま元々って言ったか? なんで過去形なんだ?」


「皆様とシムルさんがこの村を救ったあの日から、理が通常に戻ったのです。もっとも、そもそもなぜラムスが存在しており、時の流れが違ったのか。そして転生に複数のパターンが見られるのか。わたしはこれ以上、詳しい情報をもっておりません。なぜなら……」


「……そこにも上位存在が絡んでるから。そういうことだよな、姉ちゃん?」


 シムルが神妙な顔で問うと、チャロはスプーンを口に運びながら大きく頷いた。

 ここまで話を黙って聞いていたナノは、おもむろに立ち上がると、空いた皿をシンクに下げながら言った。


「……ゼイア(あの人)と、たまに話していたんです。どうしてわたしたちは、あんな闇にしいたげられなければならなかったのか。どうしてあの日、みなさんのようなあたたかい光が差し込んできてくれたのか。……どうしてあなたがたの顔を見るたび、こんなにもいとおしい気持ちが湧いてくるのか。すべてはきっと、何らかの導きによるものなのだとは思っていたけれど……やっぱり、大いなる存在が関わっていたのですね」


「……」


 彼女の言葉を聞いて、ヴェリスは考える。この地を占領していたにせの部隊。その魔の手を振り払って飛び出し、決意の果てに自分たちと引き合ったシムル。そんな彼を裏から支えた明虎に、直接ちからを貸してくれた王国軍とサブリナ、ひいては女王フルーカの存在。さらに彼らが動いている背景には、チャロや夕鈴がいて。


(そっか)


 きっと誰が欠けても、どのプロセスが無くても、いま眼前がんぜんに広がっている結果には帰結しなかったのだろう。そしてその途方もない連鎖れんさには、自分がこの世界に生まれたということすらも含まれている気がした。無論、そのせいで悲しいことや苦しいことがたくさんあったのも事実だが――最終的に"今"へと繋がるのを見越みこしていたのだとしたら、神々とはまさに、人智じんちを超えた存在としか言いようがない。


「……わたしは今もここの生まれでよかったなと思っていますし、こうしてみなさんと"家族"になれたのも、本当に幸せなことだと感謝しています。だから佳果くん、前世ぜんせのわたしと、その時の記憶がない今のわたしとじゃ……"ちょっと違う"って感じる部分もあるかもしれないけど。あなたさえよければ……その、本当に、もしよかったらでいいのだけれど……」


「――母さん」


「!」


「へへっ。シムルについては、今後ともシムルって呼ぶつもりなんだけどよ。ナノさんやゼイアさんは……母さんや、父さんって呼んでもいいか? これからはそうやって、もっと一緒にいる時間を大切にしていきたいから」


「っ……もちろん……! あの人には、わたしからちゃんと伝えておくわね!」


「サンキュー、母さん!」


 笑い合う二人を目の当たりにして、シムルは形容しがたい嬉しさに打ち震えた。その様子にちょっぴり切なさを感じるヴェリスであったが、すぐにアーリアが後ろから抱きしめに行ってフォローする。


「うふふ。わたくし、ひとつ気づいてしまいましたの。佳果さんとシムルくん、ナノさんたちは魂の縁で見ても前世からの"家族"でしたが、それって、さらにさかのぼればわたくしたちにも当てはまるのではないでしょうか?」


「! アーリアさん、実はさっきから、ぼくも同じことを考えていました!」


「あ! それあたしもです!」


「? どういう意味?」


 きょとんとするヴェリスに、アーリアはにっこりキラキラと答える。


「要するに、ここにいる全員――いいえ、いない人たちも含めて、かつては兄弟姉妹だったり、親子だったり……きっと家族だった時期があるのですわ。だからヴェリスちゃん。あなただって、みんなにとって大切なあなたであることに変わりはないんですのよ? 今までも、これからもずっと」


「あ……」


 彼女の言葉は、なぜか不思議なほどすとんと心に落ちた。そうしてヴェリスが屈託くったくのない笑顔を取り戻すと、シムルは座りながら頭の後ろで両手を組み、ニシシと満足そうに破顔する。

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