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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十一章 岐路へ立つ魂 ~決意の果てに~
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第190話 電流

 ナノについてゆくと、離れの仮宿かりやどに到着する。直前、佳果は場所についての説明をメッセージ欄に入力し、他の三人がログインした際、まっすぐ来れるようはからっておいた。そして彼女は土鍋で両手がふさがっているため、代わりにドアをノックする。こんこんと鳴らしたところ、中から「誰?」と聞こえてきた。


「シムル? 入っても大丈夫?」


「ああ、母ちゃんか。いいぜー」


 許可を得られたためそのまま扉を開けると、案の定シムルたちは目を見開みひらく。


「に、兄ちゃん!?」「あれ、佳果だ!」


「おう、喜べお前ら。ナノさんがいいもん運んできてくれたぞ」


「うふふ、ヴェリスちゃんにチャロちゃんも、こんばんは。これ、口に合うといいのだけれど……夜食をつくってきたの」


 鍋をテーブルに置き、ふたを開けるナノ。なかには炊き込みご飯で作られた雑炊ぞうすいがみっしりと入っていた。つやつやと光っている。


「……!? これは……なんと背徳的な香りなのでしょう……! どうもありがとうございます、ナノさん!」


 チャロが目を輝かせてお礼を言う。初めて見るその表情に、佳果は「お前、そんな食い意地()ってる感じだったか?」と首をかしげた。しかし、かくいう自分も先ほど軽く食事を済ませてきたというのに、"飯テロ"をされているような気分になる。こんなの、美味うまくないわけがない。


「やったぜ! ちょうど小腹こばらがすいてきたところだったんだ。ありがとう母ちゃん!」


「どういたしまして。じゃ、みんなで仲良く食べてね。そうそう、このあとアーリアさん達も来るみたいだから、わたしは追加で何かつくってくるわ」


「! いや、さすがに申し訳ねぇっすよ。そりゃ、あいつらだってナノさんの料理見たらすげー喜ぶと思うが……もう遅いんだし、そんな無理しなくても」


「遠慮しなくていいの。……わたしにはこれくらいしかできないけどね、それが少しでもあなた達の力になるなら……本望ほんもうだから」


 優しく微笑ほほえんだ彼女は、そう言い残して嬉しそうに出ていってしまった。


「……いい母ちゃんだな」


「へへ、だろー? ……でも、今こうして母ちゃんの飯が食えるのは兄ちゃんたちが俺の背中を押してくれたからだ。本当に感謝してるよ」


 鼻の下をこすり、照れくさそうにはにかむシムル。佳果も気恥ずかしそうに頭をかいた。一方いっぽう、その横で早くも「いただきます」を済ませたチャロは、雑炊をおわんに盛りながらぽつりとこぼす。


「ふむ……このに及んで、まだ気づいていないようですね、阿岸佳果」


「あん? なんだよやぶから棒に」


「……一応いちおう確認しておきますが、あなた、さっきまで昏睡こんすいしていたのでしょう? おおかた神気を使った反動(・・・・・・・・)で。だから例の山を離脱したあと、こちらからの勲章くんしょうの呼びかけにも応じられず、こんな夜更けにログインしてきた。違いますか?」


「!? そいつは……」


 彼女の言葉に、佳果だけでなくヴェリスたちも驚いている。


「……であるならば、です。これからやってくる他の三人もそうですが、あなたがたは現在、その副作用として一時的に霊感が上昇しているはず。なんとなく、普段よりも感覚が研ぎ澄まされているような感じはありませんか?」


「そう言われてみりゃそんな気もするが……霊感が上がるとなんかあるのかよ?」


「普段気づけなかったことがわかるようになります。そう、例えば魂のえんとか」


「魂の縁?」


「よーくごらんになってください。いま目の前にいるのは誰ですか?」


 チャロが何を言いたいのかよくわからなかったが、佳果はふと、シムルの目を見て意識を集中してみた。シムルもまた、月が"神気しんき纏繞てんじょう"と言っていた状態に入り、テラリウムの瞳をもって佳果の目を見返す。


 すると、互いに視える解像度は違えども――二人はそれぞれの身体を超えた先にあるもの、すなわち魂が放っている波動をとらえた。そしてそこに失われた時間(・・・・・・)が紛れていると直感した彼らは突如とつじょ、脳天に強烈な電流が走り抜ける感覚に襲われる。


「!!!」


「……ぁ……」


 呆然ぼうぜんと立ち尽くす両者、それを怪訝けげんそうな顔で見つめるヴェリス。しかし二人の時が止まった理由は、すぐに明らかとなった。


「シムルお前…………和歩かずほ……なのか……?」


 佳果が絞り出すように口にしたその名は――今は亡き、彼の弟を表していた。

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