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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十一章 岐路へ立つ魂 ~決意の果てに~
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第187話 爪痕

「こ、このかおりは……!」


 布団に横たわっていたチャロが、もぞもぞと寝返りをうち、シムルの手元を見る。そこにはできたてホヤホヤのパスタが湯気ゆげを立てていた。


「ほら姉ちゃん、できたぜ。有り合わせだけど、意外と味は悪くないと思う」


「わあ、ありがとうございますシムルさん……!」


 丸一日以上なにも食べていなかった彼女は、目にも止まらぬ速さで席につくと、フォークをくるくる回してペスカトーレ風のそれにありついた。新鮮な魚介と酸味の効いたソースがからみ合い、程よい歯ごたえのあるアルデンテと見事に調和している。


「――」


 あまりの美味おいしさに黙々と食事するチャロ。その背中をやれやれと苦笑いで見つめるシムルのとなりへ、ヴェリスが歩み寄る。


「……たぶん食べ終わったら、次は眠くなるよね」


「だろうなぁ。一睡いっすいもしてないっぽいし」


「じゃ、わたし達がわってあげない? 魔境の様子を見るの」


「おーそれはありかもな。でも、お前は寝なくて大丈夫なのかよ?」


「うん。むしろ、もうちょっと起きていたい気分。超感覚の制御がうまくいったのが嬉しくて……なんだか目もえちゃってるから」


「……そっか。へへ、実はおれも似たようなもんさ」


 ――その後、満腹になったチャロは予想にたがわず、幸せそうな顔でまぶたをこすっていた。そうして口を手でおおい、大きな欠伸あくびをひとつすると、彼女は目尻めじりに涙を浮かべながら二人の提案に謝意を述べる。


「ふわぁ……申し訳ありません。ではお言葉に甘えて、ほんの少しだけ休ませていただきます」


「少しと言わず、普通に休んだら?」


「いいえ。ちょうど今、ガウラさん達が調査の佳境かきょうむかえているところですから。彼らが結界に着いたら、問答無用で起こしてくださいね」


「結界って?」


「詳しい経緯いきさつはこちらにまとめてあります。目を通していただければ全てわかるようになっていますので……モニタリングと並行してご一読いちどくください。……ではわたしは失礼して……」


 そう言ってノートを手渡し、再び気絶するように布団へ倒れ込むチャロ。シムルとヴェリスは興味深そうに、彼女のつづった流麗りゅうれいな文字を追いかけた。



 いっぽう魔境では、無事に昌弥まさやをパリヴィクシャの元へ送り届けたノーストとガウラが、すぐさま結界に向かって出発していた。結界とその中心部にある門は、シーマと呼ばれる山の頂上ちょうじょうに存在する。


 この山は斜度がきつく、遭遇そうぐうする魔獣も手強てごわい個体ばかりだ。ガウラはなるべくノーストに負担を掛けまいと、位置取りに神経をすり減らしながら進んだ結果、心身ともに疲労(ひろう)困憊(こんぱい)となった。しかしそんな険しい道中をなんとか乗り越えた彼らは、とうとう現場に辿り着く。


「ぜえ……ぜえ……やっとついたわい……ここじゃな……? 夕鈴殿とトレチェイス殿が現れたという地点は」


「ああ。門の位置、そしてあのとき楓也が走ってきた方向から推測するに、この辺りで間違いないだろう。あとは両者の魂がまだ残留ざんりゅうしているかいなかだが……」


 ノーストはおもむろに、右手でつかんでいた小型の魔獣を放り投げる。ところが特に反応を示すこともなく、魔獣は結界と反対方向へ全力疾走で去っていった。


「ふむ。里長いわく、えさを認知した場合は最優先で喰らいにゆくはずだが」


「……つまり、二人はすでに別の個体に喰われてしまったあと、ということかのう。これはなかなか厄介やっかいな展開に――ん?」


 ふと視線を横に向けたガウラが、あるものに気づく。


「どうした」


「ノースト殿……おぬしはあれをどう見る?」


 彼が指さした方向の地面に、巨大な爪痕つめあとが確認できる。それは不規則に散在さんざいしており、途中からは結界内(・・・)へと続いていた。

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