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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十一章 岐路へ立つ魂 ~決意の果てに~
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第185話 境地

 食事を終えたヴェリスとシムル。

 二人は木々の隙間すきまから星空を見上げ、明虎の言葉を振り返っていた。


「月の声……か。あの人は簡単に聞けるって感じの口ぶりだったけど、まず"縁”の結びかたがわからないや」


 万物のささやき――この場合においては月の集合意識が放つ声を指すが、それを捕捉ほそくするには、前提条件として"縁"が必要であるとチャロは言っていた。


 先ほど食べた鍋料理の素材に関しては、昔から世話に(血肉に)なってきている(かえてきている)ため知らずしらずのうちに縁が結ばれていたのだろう、近づいて意識さえ集中すれば声が聞こえてきた。しかし月というものはいつ何時なんどきも、空の向こうから一方的にこちらをのぞいているばかりである。あれにアプローチする方法など、容易よういに思いつけるものではない。


「でも、明虎は答えも教えてくれてた。月の願いは、太陽と一緒に世界を照らすことだって。……縁を結ぶ前に、そっちをかなえてみるのはどう?」


「おれが先に太陽になって、世界を照らすってこと? まあ最近そんなふうに在りたいな~と思うようになってきてる自分はいるんだけどさ……抽象的すぎて、余計にわけがわからなく――いや、待てよ」


 シムルは考えるポーズをしながらステータス画面を呼び出し、SSの項目を閲覧した。そこには透明な粒子がかがやく、己の魂のグラフィックが表示されている。


「どうかした?」


「明虎さんはおれが太陽をたずさえているとも言ってた……普通に考えるなら、魂に太陽神様のエネルギーが宿ってるって意味のはず」


 グラフィックを指でなぞるシムルを、ヴェリスは黙って見つめていた。数秒の静寂を経て、彼は何か思い当たったのか、急に希望に満ちた表情になる。


「――おれ自身の魂に意識を集中してみるか」


 思い立ったが吉日きちじつ、シムルは自分で自分の周波数をさぐった。するとグラフィックの光が増してゆき、気づけば身体の周りにウニョウニョが発生しているのに気づく。


(! この透明のモヤは……!)


 ヴェリスのほうを見遣みやると、どうやら彼女の視線も同じものをとらえているようだ。咄嗟とっさに闘技場での体験がフラッシュバックし、その再現といわんばかりに、シムルは感覚で生命エネルギーを操作してみた。果たしてモヤは、連動するように膨らんだり縮んだりしている。


「……! シムル、もしかして……!?」


「おう、おれにも視えてるぜこれ!」


 このタイミングでヴェリスと同じ景色を目の当たりにできると思っていなかった彼の心は、にわかに高揚こうようした。そして感じるままに"均一化"をおこなって月をあおぐと、声が聞こえてくる。


『……おや、視たことのない顔だ。しんてんじょうはこれが初めてかな』


「へっ? あ、ああはい、たぶん……? あなたは……お月様なのですか」


『ふふっ、礼儀正しい子だね。……そう、私は月の意識。きみが太陽(きょうだい)まとってくれたから、こうして疎通ができている。にしても驚いたな……きみは無機的な身体なのに、波動がとてもあたたかい。その稀有けう霊感れいかんはきみが育った環境がもたらしたものなのか、あるいは――』


「霊感……?」


『おっと、ごめんね。なんにせよ、今のきみは私にとって家族そのものだ。きみの願いは私の願いであり、私に視えるものはきみにも視える道理。これから共に世界を照らしてゆけたら嬉しいな。どうぞよろしくね』


 刹那せつな、シムルと月の視界が繋がった。アスターソウルに生きとし生けるもの、そのすべてが太陽から反射してくるならされた周波数によって捕捉できるようになる。まるで世界を縮小したかのような美しきテラリウムを瞳にうつす彼を見て、ヴェリスは息をのんだ。さなか、脳内に声が響きわたる。


(ヴェリス、聞こえるか)


「! 聞こえるよ」


(いきなりだけど、何か飲みたいものとかない?)


「え? ……うーん、食後のお茶?」


(おっけー)


 謎の確認を行ったシムルは、直後に姿を消す。しかしものの3秒程度で戻ってきた。その手には湯気の立ちのぼる、淹れたてのお茶が入った湯呑ゆのみが握られている。


「!? どうやったの?」


(いま家に瞬間移動して、父ちゃんのお茶もらってきたんだ)


「じゃあ、シムルは……!」


(ああ。スキルなしで、無制限の念話と瞬間移動が使えるようになったぜ)

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