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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十一章 岐路へ立つ魂 ~決意の果てに~
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第182話 重き真相

 ――その後、刻宗ときむねに見送られて里を出立しゅったつした三人は、現在パリヴィクシャの元へおとずれるべく、アビヒの森を抜けたところである。昌弥まさやは森の外がどうなっているのかほとんど知らないらしく、キョロキョロと荒野を見渡しては、魔獣に襲われまいかとしきりにびくついている。


「……初の遠征えんせいで緊張しているのは理解できるが、われが責任をもって守る。適度に肩のちからを抜くがよい」


「! はい、すみません……」


「ヌハハ、ノースト殿がいれば、きっと悪いようにはならんわい! わしらは気楽にゆこうぞ、昌弥殿!」


「……うぬはもう少し緊張感をもたぬか」


 ため息まじりに苦言をていするノーストだったが、その口元は少しゆるんでいた。ガウラの寄せる全幅ぜんぷくの信頼が伝わっているのだろう、軽口をたたける二人の間柄あいだがらを見て、昌弥は少しうらやましく思った。


「ときに昌弥殿。わし、先の出来事について道すがら頭で整理していたんじゃが……儀式のこと、もう一度くわしく聞いてもよいかのう?」


「もちろんです。何でも聞いてください」


「助かるぞい。……まず、儀式の執行しっこうには里長さとおさ殿とほこらの存在が不可欠。よって基本は、あの隠れ里でのみ行われている秘術である。そうじゃったな?」


「はい。ですが、夕鈴ゆうりさんと思われる魔物はあの映像の中において、たった一人でそれをやってのけていました。しかもその際にともなっていたのは黒ではなく()だった」


「……その理由はまだわからぬゆえ、ひとまず保留ほりゅうとしたのが先刻せんこく暫定ざんてい的な結論だったな。で、問題は"全放出"により愛珠あいしゅを生成した場合、当人が不可視の魂と化し、その場にとどまる点か」


「どのような理屈なんじゃろうな……ノースト殿でも視えぬ魂魄こんぱくが、魔獣に限定して捕捉ほそくできる状態になるというのは」


 里をつ前、刻宗が言っていた説明を思い出すガウラ。儀式を受けた者は、愛珠を出力した時点で魂だけの存在となり、魔獣以外に視えなくなるそうだ。そして魔獣はこれをえさと認識するため、見つけ次第()らう習性を持っているのだとか。なお、くわえた瞬間は誰でも目視できるようになり、その魔獣が討伐とうばつされると魂は解放され、元の姿を取り戻す。これは実際に実演してもらったとおりである。


「……理屈はどうあれ、あの映像の後、夕鈴の魂は一度(いちど)魔獣に喰われていると考えてよいだろう。その魔獣をほふったのがトレチェイスなのかは定かでないが……最終的に二人は再会を果たし、そこから何かの目的をもって愛珠を集め、結界に向かっていた可能性が高いからな。ともすれば、里長ではないほうの賢者が絡んでいる線も浮上するか」


「……お二人から話をうかがって、オレもおおむね同じ推理すいりをしていました。ただそうなると……夕鈴さんは……」


「……うむ。少なくとも、記憶を失っていることになるのう。ジェフィーラという、新たな名を得た代償だいしょうとして」


 捨てた名と記憶を復活させる手段が存在するのかは、賢者である刻宗かれですら知り得ていないという。この無情な事実に直面した時、佳果や楓也はどんな顔をするだろうか。せっかく重要な手かがりがつかめたところではあるのだが――二人は重苦しい空気をまとった。するとノーストが静かに目を伏せ、歩を進めながら言う。


「大丈夫だ」


「ノースト殿……?」


「あやつらは、これまでも幾度となく深い闇にまれている。しかしその度、むしろ輝きを増して邁進まいしんしてきたのだ。……かりに転ぼうとも、ただでは起きぬ連中だろう? この件とて例外ではあるまい」


「……魔人のあなたがそこまで言うなんて……その佳果さんや陽だまりの風というのは、本当にすごい人たち、なんですね……」


「まあ直近は太陽まで持ち出しおって、暑苦あつくるしいことこの上ないがな。だのにこうしたさっぷうけいを見ていると、存外ぞんがいそういうのも悪くないと思えてくる。不思議なものよ」


「……? (太陽って、比喩ひゆか何かかな)」


「ちなみに当然、そこには零子も含まれているぞ」


「え……」


「……昌弥よ、無理強むりじいするつもりはない。だがうぬが愛珠を集め、人間の姿に戻るには長い時を要するだろう。……もし先んじて顔を見せてやってもよいと思い直した場合は、吾らに相談せよ。今の零子(あやつ)ならば、真心まごころですべて受け止められるはずだ。もっとも、うぬが一方的に向こうへ映像を送るだけの体裁ていさいにはなってしまうだろうが」


「…………わかりました」


 昌弥はノーストの言葉を心で反芻はんすうした。その横ではガウラが、両頬りょうほほをバシッと手で叩き、覚悟を決めた表情になっている。


「よし。わしはあちらへ戻ったら、皆に夕鈴殿の"すべて"を伝えるぞい。そのためにも、今は昌弥殿を集落まで送り届け……」


「ああ、その後は結界へ向かうとしよう。楓也の救出が儀式として成立していたのであれば、夕鈴とトレチェイスの魂はまだそこにいるか、すでに魔獣に喰われたかのいずれかだ。その痕跡こんせきが見つかった時点で、捜索そうさくはいよいよ大詰おおづめとなる」



 ここまでのガウラたちの動向を見守っていたチャロは、次々と明らかになってゆく真相しんそうに難しい顔をしていた。


(昌弥さんの異形いぎょう化、夕鈴の記憶喪失……ノーストの言うとおり、陽だまりの風ならばきっと大丈夫でしょう。でもだからといって……ショックを受けないはずもありません。共に現実世界を生きたことのないわたしですら、こんなにも胸が張りけそうなのですから……)


 深呼吸をして、窓越しにひとり、暗くなった外を眺めるチャロ。

 勲章くんしょうによる佳果たちとの通信が途絶えたあと、彼女はしばらく狼狽ろうばいするヴェリスとシムルをなだめていた。しかしそこへムンディから連絡が入り、彼らの無事が保証され、ひとまず落ち着きを取り戻したのが数時間前のこと。


 ところがその際、上位魔神に関わる事態が発生していると聞きおよんだ彼女たちは、今後いつなにが起こるかわからなくなった以上、上位誠神(せいしん)側である太陽神の示唆しさ――つまり星魂(アスターソウル)を導くという主目的を、いっそう迅速じんそくに、着実に進めていかねばならないと痛感したのだった。ヴェリスたちははやる気持ちを抑えきれず、現在は再び山ごもりの修行に出かけている。


(あちらの四人はそろそろ宿に着いた頃合ころあいでしょうか。すると、もうすぐこちらへログインしてくるかもしれませんね。……さて、どのタイミングで打ち明けたものか)

お読みいただき、ありがとうございます!

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