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魂が能力になるVRMMO『アスターソウル』で死んだ幼馴染と再会したらAIだった件  作者:
第十一章 岐路へ立つ魂 ~決意の果てに~
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第181話 実演

儀式ぎしき……もしや先刻、昌弥まさや殿が教えてくれた"新しい名を得る"というやつかのう?」


「ええ。ですがあれは里長さとおさの支援がなければ誰にもできないはずなのに……」


「……議論は少し待て。まだ映像が続いているぞ」


 ノーストの声に引き戻され、ガウラと昌弥は再び鏡をのぞいた。


 人間の姿になり意識と傷が回復したトレチェイスは、慌てて飛び起きると周囲を確認している。しかし付近には先ほど刺し違えた魔獣が横たわるばかりで、他には誰も見当たらない。彼はその状況が"あり得ない"と言わんばかりに、何かを――おそらく夕鈴ゆうりをしばらくさがし回っている様子だった。ところが、やがてみずからの胸に手を当てると、急にそのままひざから崩れ落ちて泣き叫ぶ。


 そして次の瞬間、今度は彼自身が愛珠を生成して、まるで天にささげるかのごとくそれを両手で包み込み、かかげ、平伏へいふくし始めた。すると再びリザードマンの見た目に戻るトレチェイスだったが、その後、特に何かが起きることはなかった。残った愛珠をかかえ、トボトボと現場から去ってゆく彼が画面外へと消えたタイミングで、映像は途切とぎれている。


「むう。音声が聞こえぬ以上、いかんせん憶測おくそくになってしまうが……彼は夕鈴殿がいなくなった原因は愛珠にあるとみて、目下(もっか)彼女を取り戻すべくその場で生成し直してみた……そんなところじゃろうか?」


われも同じ見解けんかいだ。だがこの時点でトレチェイスは夕鈴を発見できぬまま立ち去っている。にもかかわらず、楓也と遭遇そうぐうした際は二人ふたりともそろっていたという――里長、今しがたの映像はいつ頃のものだ?」


「一年以上前の記録になるな」


「……であれば俄然がぜん、儀式の仔細しさいについて問いたださねばなるまい。愛の全放出とやらに加え、身体の喪失そうしつ、およびそれを取り戻す方法(・・・・・・)。うぬは知っているのだろう?」


 真剣な眼差しで刻宗ときむねすくめるノースト。状況を理解したガウラも「秘術ひじゅつたぐいならば申し訳ないが……断じて口外はせぬと約束いたすゆえ、どうか!」と言って頭を下げる。刻宗は一瞬だけ考える素振そぶりを見せたが、ほぼ即答で承諾しょうだくしてくれた。


「……あいわかった。丁度ちょうど、本日付けで儀式をり行う予定の者がいる。百聞ひゃくぶんは一見にしかず。このまま実演じつえんさせていただこう」



 小さな祠の前で、刻宗と里の者が向かい合っている。

 刻宗の言葉を合図あいずに、儀式が始まった。


なんじ、今この時をって過去生かこしょう未練みれんち切り、永久とわ混沌こんとんまみれ、あらがう意志をつらぬき、瀉血しゃけつによって魂をそそぎ、きよめ、救い、救われんとほっすか」


「……はい」


「……そなたの意志、この里長がしかと聞き届けた。だがの道は決して"果て"には通じておらぬ。飽くなき研鑽けんさんの末、かんの目を得る本懐を見失うことなかれ。……貴殿きでん羽化うかを、それがしも里の仲間も……そして来訪者らいほうしゃ殿どのたちも、みな等しく祈っている」


「ありがとうございます」


「では迷わず放つがよい。その感謝、すべて受け止めよう」


 そこまで問答すると、刻宗とほこらが黒いオーラにおおわれ、里の者から放たれるエネルギーを全て吸引し、大きな愛珠を生成した。伴って、里の者は映像で見た夕鈴と同じく、忽然こつぜんと姿を消す。


「さて、出番でばんだぞ」


 刻宗が近くでくさりに繋がれていた小型の魔獣を解放する。魔獣はクンクンと地面をぎながら先ほど里の者が居た場所まで行くと、大きく口を開けてバクリと何かを食べる動作をした。刹那せつな、青白い炎のようなものが魔獣によって咀嚼そしゃくされ、飲み込まれてゆくのがわかる。その光景を唖然あぜんと眺めていたガウラたちだったが、直後、彼はさらに驚きの行動に出た。


御免ごめん


 剣で魔獣を斬り捨てる刻宗。この一連の流れにどのような意味があるのかとガウラやノーストがかんぐっているさなか、なんと倒れた魔獣から先ほどの青白い炎が宙に浮かび上がり、里の者へと姿が戻ってゆくではないか。


「!?」「ぬ」


「……これで儀式ぎしきは完了しました。あのかたは生前のことを忘れて、新しい名を手に入れたのです。今日からは魔珠ましゅを求めて、闘争に明け暮れる日々が始まるでしょう」


「…………」


 昌弥の言葉に、複雑な顔をするガウラ。

 ――だがここは魔境だ。少なくとも、裏技を駆使くしして入ってきた"イレギュラー"である人間の自分が、修羅しゅらの道をゆく意義、名を捨てた本人の心奥しんおうなど、正確に推しはかることなどできないだろう。ガウラは首を振って我に返り、気持ちを切り替えた。いま大事なのは、この儀式が夕鈴失踪(しっそう)の核心に触れたという事実なのだから。

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